プロ野球界にも広がるチャリティの輪 ロベルト・クレメンテが遺した「差し伸べる手」の教え (3ページ目)
そんな大野が、母子家庭の子どもたちを球場に招くようになったきっかけは、テレビで見た和田毅の姿にあった。小さな頃に受け取った思いが、今、次の世代へと手渡されている。
和田は一球投げるごとに、10本のワクチンを提供するという活動を行なっていた。大野は、その様子をテレビCMで見て、心を動かされたという。
「もし将来、プロ野球選手になれたなら、自分もいつか、あの人のように誰かのために行動したい」
そう思ったことが、彼の原点となった。
「やっぱりひとり親家庭って金銭的に裕福でないことが多いんです。僕の家庭もそういった環境でしたが、それでもいろいろと遊びに連れていってくれました。招待したご家庭から後日手紙をいただきます。初めて野球を観戦したという子が多いんですね。その手紙には『野球が好きになりました』とか『息子が野球を始めました』と書かれているんです。『ああ、やっていてよかったな』と思える瞬間ですね」
大野が球場に招いた子どもが、遠い未来にプロ野球選手になる──誰もその可能性を否定することはできない。なぜなら、それを大野自身が体現しているからだ。
【善意はバトンのように受け継がれる】
和田から大野へ、そして大野から名もなき未来のスター選手へ。その未来のスターもまた、彼らから善意を受け継ぐ。時間をかけながらも、善意のサイクルが小さいながらも日本球界で起きている。
例えるなら、善意のリレーだ。片方の手は握手をするためだけに使うのではなく、先達からバトンを受け取り、次の走者へと手渡すために使おう。
栄えある第一走者は言うまでもなくクレメンテである。彼がスタートを切った時には、まだまっさらだったバトンは、半世紀もの長い時間をかけて手渡されてきた間に、各走者の色が染み込み、独特の色合いを帯びていることだろう。
和田がワクチンを提供した団体・JCVの創設者は、細川佳代子氏。そう、村上氏を慈善活動へと誘ったキーパーソンである。彼女もまた、野球選手たちがつなぐバトンリレーとは異なるトラックを走る第一走者なのだろう。そして時に、野球界の走者を支える伴走者の任にあたる。
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