プロ野球界にも広がるチャリティの輪 ロベルト・クレメンテが遺した「差し伸べる手」の教え (2ページ目)
ニカラグアの子どもたちが死すべき時は今ではない。そう考えて行動したクレメンテ自身に、その時がやってきてしまった。なんという神のいたずらか。
もちろん、誰もがここまでの覚悟を持てとは言えない。私自身も持ち合わせていない。だが、中田翔が発した「神様っていないね」という言葉を聞いた時のネメシオ・ポラス氏の答えに、我々がとるべき態度のヒントがあるように思う。
「人生は完璧じゃない。誰だって、いい行ないだけをして人生を終えることはない。人間は、間違いを犯すものだ。でも、それでも自分なりに正しいと思う決断をして、よりいい道を行くしかないんじゃないか。クレメンテは若くして亡くなった。でも、みんないつかは逝くことになる。ならばできるだけ人として誠実でいたいよね。神はいるよ」
【大野雄大を突き動かした幼き日の記憶】
村上雅則氏が現役だった頃、チャリティをしようものなら、先輩たちから「おまえ、そんないい格好してんじゃねえよ」と言われた時代だった。いまでもなお、「そんなことをする時間があるなら、野球に集中しろ」といった声が周囲から聞こえてくる。必要なのことは、誠実に行動したいと願う人々が、揶揄されることなくその思いを実行できる環境を整えることだ。
参考になるのは、藤浪晋太郎が在籍していたオリオールズだろう。彼をチャリティ活動へと誘ったジェームズ・マキャンのような選手がいることで、チームの環境は大きく変わりうる。
慈善活動に積極的な現役選手がチームの中心となり、さらに彼らが引退したあとにこそ、古い価値観が少しずつ変わっていくのではないか。藤浪が指摘していたように、見本となる大人が増えていくことこそが、未来へとつながっていく。NPBでも、マキャンのような存在がひとり、またひとりと現れることを願ってやまない。
その兆しはある。中日の大野雄大が、自身の経験を語ってくれた。彼もまた、中田翔や大塚晶文コーチと同じく、母子家庭で育ったという。
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