ドジャースは「二刀流」大谷翔平を戦力としていかに「最大化」&「最適化」を図っていくのか? ライバル・メッツとの比較 (2ページ目)
【MLBの最先端トレンドをも凌駕する二刀流・大谷】
このように、ベンチ入りの26人枠だけでなく、メジャー契約の40人枠にいかに優れた選手を集め、選手層を厚くするかが、編成本部長の腕の勝負どころとなる。近年はどのチームでも負傷者が増えており、40人枠の外にいる選手もうまく活用する必要がある。
ある球界関係者はこう語る。
「大切なのはロースター管理。ドジャースやメッツは、まるで40人枠に60人いるんじゃないかと思うほど、負傷者リストなどを巧みに活用して選手をうまく動かしている。資金力だけではなく、常に的確な判断をしているからこそ、それが可能になっている」
選手枠を有効に使う手段は多岐にわたる。たとえば、メジャー経験の少ない選手にはオプションが残っているため、メジャーとマイナーを行き来させ、交替で起用することで、イニングを消化できるし、相手チームとの相性を見ながらの起用も可能になる。
また、負傷者リストの活用も重要だ。60日間の負傷者リストに登録された選手は40人枠から外れるため、新たな選手を追加できる余地が生まれる。野手に関しては、複数ポジションを守れるユーティリティ性の高い選手を増やすことで、監督がより柔軟にラインナップを組める。さらに、他球団で戦力外になった選手と契約したり、自軍内の選手をいったん戦力外としてウェーバーを通過させたあと、再契約してマイナーに送るといった手法も活用されている。
こうしたロースター管理における複雑な動きは、一人の力だけではコントロールできない。スターンズは「我々は今、ますます多くのデータや情報源にさらされている。より複雑なアルゴリズムを必要としており、それを扱える多数のアナリスト、そして賢く創造的な人材が求められている。野球運営部門は医療スタッフ、コーチ、スカウト、アナリストなどを含めれば200〜250人規模になる」と言う。おそらく、ドジャースも同様の体制を整えているのだろう。こうした巨大な組織がチームを管理し、競い合っている。
しかしながら、大谷翔平という二刀流の存在は、彼らがはじき出す合理的な答えを超えている。実際、今回の二刀流実戦復帰も当初のチームプランを覆し、急遽決定された。
6月10日、サンディエゴで3イニングのライブBPで44球を投げたあと、大谷は、試合前のこうした練習が体に大きな負荷をかけていると訴えた。そこでこう提案した。
「もう、やるべきことはすべてやったと思う。1〜2イニングだけなら、もう準備はできている。今、投げてもいいですか?」
そして、その意思は通った。
現役時代メジャーで投げていたドジャースのブランドン・ゴームズGMは、こう説明する。
「午後1時半とか2時に肩を作って投げ、そのあとクールダウンして、再び身体を立ち上げて1番打者として出場するなんて前例はない。だからこそ、常に話し合いの必要があって、何よりも、大谷本人が主導権を握ることが重要だった」
MLBの最先端を行くシステムのなかで、一人の人間が計画を凌駕する。それが二刀流・大谷翔平なのである。
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
大谷翔平 (おおたに・しょうへい)
1994年7月5日生まれ。岩手県水沢市(現・奥州市)出身。2012年に"二刀流"選手として話題を集め、北海道日本ハムからドラフト1位指名を受けて入団。2年目の14年にNPB史上初の2桁勝利&2桁本塁打を達成。翌年には最多勝利、最優秀防御率、最高勝率の投手三冠を獲得。
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