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大谷翔平&ドジャースの活躍を伝える日系4世アナウンサーが「実況に日本語を使わない」理由とは? (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【日本語を使うことに敏感になる理由】

 しかしながら現在ドジャースの実況を務めるネルソンは、中継のなかで日本語を使うことはない。「日本語を知っているのに、なぜ使わないのか」と問うと、こう答えた。

「私が日系人だから、日本風の言葉を使うのではないかと周囲は期待するかもしれません。実際、私も考えたことがあります。翔平がグランドスラムを打ったときに、『マンルイホンルイダ』と言おうかな、とか。でも、実況アナとしては、ほかの人が使っているフレーズを真似するのは避けたいんです。ビクター・ロハスは日本人ではありませんが、彼は翔平のホームランをそう表現すると決め、それが彼のスタイルになった。私は自分のやり方でいこうと決めました。

 さらに、ドジャースの試合を中継する『スポーツネットLA』の視聴者の多くは英語を話し、英語で聞いているという現実もあります。もし私が日本語で何かを言ったとしても、彼らが理解できなければ意味がない。そのあたりのバランスを取ることが大切だと感じています。私は日系人としてのバックグラウンドを大切にしていますが、過剰に強調したり、余計なことはしたくないと思っています」

 加えて、日本語を公共の場で話すことについては、コミッショナー特別表彰の時と同様、とても神経質になると明かした。

「日本語をもっと理解できるようになりたいとは思いますが、日本語を話すことがどうしても怖いんです。あなた(筆者)のように、第二言語を使いこなす人たちを見ると本当に感心します。私にとって、第二言語を話すのは無防備になっているような感覚がある。言葉が正確かどうかわからないし、誰かに失礼なことを言ってしまうのではないかと心配です。そもそも言語の構造も違う。だから日本語を話すとすごく緊張してしまうんです」

 この説明を聞いて、アメリカ社会でマイノリティとして生きることの意味について改めて考えた。加えて近年アメリカのスポーツチームがインディアンズ(MLB)やレッドスキンズ(NFL)といったアメリカ先住民にちなんだニックネームを使うのをやめた理由についても考えた。

 アメリカ先住民は何世代にもわたって土地や文化を奪われ、強制移住や虐殺といった過酷な歴史を経験してきた。このため先住民の文化やシンボルを使うことは、過去の痛ましい歴史を軽視することにつながり、マイノリティに対するステレオタイプ的なイメージを助長することになる。すなわちそうした行為は、その末裔の人々にとって侮辱的に感じられるという説明だ。

 すでに書いたようにアフリカ系アメリカ人や日系人も長年にわたってステレオタイプの偏見に苦しんだ。差別を直接経験し被害にあってきた人たちだからこそ抱く感じ方がある。

 日本のメディアにたびたび登場し、その印象的な髭をたくわえた風貌で日本でもおなじみとなった『ロサンゼルスタイムズ』紙のディラン・ヘルナンデス記者も日系人である。その彼は、2023年にエンゼルスが恒例化していた、ホームランを打った際、ダグアウトで武将の兜をかぶせるセレブレーションについて、現地の日系人で違和感を抱いた人が少なからずいたという話を教えてくれた。

 ネルソンはひとりの日系人にすぎないが、パイオニアとして彼がマイクを通して発する言葉は、日系社会を代表する。だから言葉に対して敏感で、とても慎重になってしまう。

 MLBチームで初めてアジア系の実況アナになったことについて、ネルソンはこう語った。

「初めてであることはすばらしいですが、決して最後であってはならない。私のあとにも日系の実況アナウンサーが続いてくれることを願っています」

 だからこそ、軽々しく日本語で言葉遊びなどできない。筆者はそう推察したのである。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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