大谷翔平はワールドシリーズで歴史に残る「ミスター・オクトーバー」になれるか? (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【大谷、ジャッジの対相手投手陣の成績】

 ドジャースでポストシーズに強いと言われるキケ・ヘルナンデスは、9度ポストシーズンに出て81試合で打率.278、15本塁打、OPSは.889。公式戦は通算打率.238、OPSは.713である。ナ・リーグ地区シリーズ第5戦でサンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有から先制本塁打をかっ飛ばしたとき、「なぜ、大舞台で強いのか」と聞かれ、本人は成功を視覚化していると説明した。

「走者なし、走者一塁、走者二塁、1・2塁、満塁、いろいろな状況で、自分がダルビッシュのどんな球でも打つ姿を思い描いた。ポストシーズンでは不安や自己疑念が心に忍び寄ってくる。特に夜、寝るとき、そんな気持ちになるのは普通だ。そこで視覚化の力を役立てる。不安が浮かんできたら、成功する自分を何度も視覚化する。そうすると、次の日に球場に行った時、すでにその日を体験したかのように感じるので、何に対しても圧倒されない。どんな瞬間も大きすぎることはなくなる」

 だが、こういった言葉を信じる人は少なくないだろう。しかしながら、筆者はサンプルが増えれば公式戦の数字に近づくだけだと思う。

 それでもその限られたサンプルのなかで、結果を残せるか、残せないかで、全米の評価が決まってしまう。アンフェアーでもそれがポストシーズンの現実だ。公式戦のマラソンから、短距離走に変わり、戦い方も変わるが、そこで自分の実力を見せつけなければならない。

 ちなみに大谷は、対ヤンキース投手陣で見ると、エースのゲリット・コールに20打数4安打(1本塁打)7三振と少し苦手にしているが、左腕カルロス・ロドンには3打数1安打(1本塁打)3四球、クラーク・シュミットには3打数1安打(1本塁打)2四球、クローザーのルーク・ウィーバーには1打数1安打(二塁打)で、特に苦手な投手がいるとは思えない。

 ジャッジの対ドジャース投手陣の成績を見ると、山本由伸に2打数1安打(二塁打)1四球で、ジャック・フラーティとウォーカー・ビューラーとは過去に一度も対戦はない。リリーフ陣とはひと通り当たっていて相性は悪くない。ジャッジも特に苦手な投手がいるとは思えない。ふたりとも心強いのは、それぞれムーキー・ベッツ、フアン・ソトといったチームメートが好調なので、投手は歩かせるわけにもいかず、ストライクゾーンで勝負してもらえることだ。

 メジャー7年目で初のポストシーズンを迎えた大谷は、大舞台でのプレッシャーよりも、そこに出られる喜びをしばしば口にする。

「単純に、ここまでプレーできていること自体が幸運だと思います。10月まで戦えるのはひと握りのチームや選手だけ。結果はどうあれ、こうしてプレーできていることが何よりすばらしい」

 結果に一喜一憂するのでなく、貴重な経験に心から感謝しているのである。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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