ドジャース・ロバーツ監督に見る、今日のリーダーシップと結果への宿命 大谷翔平は「選手個人、個人と会話の多い監督」 (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【メディアを通して選手に語るということ】

 ロバーツ監督のメディア対応でいつも感心するのは、答えることが難しいはずの厳しい質問にも、熟練した政治家(SKILLED POLITICIAN)のように巧みに返答していることだ。

 たとえば大谷が序盤、とんでもないボール球に手を出し空振りをしていた時も、「ゾーンを見極め、振るべきボールを振っている。これを続ければいい結果につながる」と真顔で言う。ネガティブなことは言わない。

 それについて、ロバーツ監督に聞くとメディア対応の重要性を強調する。

「SKILL(メディア対応における技術)は重要だよ。というのは選手というのは今まで以上に、監督がメディアに話したことを聞いているし、読んでいるからね。だから注意しないといけないし、よく考えて喋らないといけない。実際のところ、私はメディアを相手にしていても、選手相手に喋る心構えになっている。メディアを通しても、私が選手のことを信じているし、信用しているとわかってもらいたいからだ」

 ロバーツ流のこのリーダーシップが、ドジャースの成功につながってきたと思う。選手は毎年入れ替わりが激しいし、シーズン中でもよく交代する。だからどんなチームでも浮き沈みがあるが、彼のドジャースは安定して強く、就任から9年目で8度目の地区優勝に近づいている。100勝以上のシーズンは5度。841勝502敗、勝率.626(現地時間9月15日現在、以下同)はメジャーリーグ歴代1位のジョー・マッカーシー監督(*)の.615を上回る。

*1919〜50年にMLB監督として活躍。ニューヨーク・ヤンキースでは7度のワールドシリーズ制覇を果たしている。

 今季も大谷入団から、水原一平スキャンダル、ムーキー・ベッツのポジション変更とケガ、投手陣の相次ぐケガと離脱などがあったが、88勝61敗とフィラデルフィア・フィリーズに次ぐメジャー2番目の好成績である。チームをまとめる能力について本人は「監督の仕事のなかで最も難しいのは、誰も見ていない部分。それを本当に誇りに思っています」と話している。

 とはいえ、もし今年もポストシーズンで勝ち進めず、地区シリーズで敗退するような事態になれば、契約があと1年残っていても解雇される可能性がある。ドジャースはオフに12億ドルの大型投資をし、それでも結果が変わらなければ、スケープゴートを求める声が上がるだろう。

 その際、選手がそのターゲットになることは考えにくく、フリードマン編成本部長も、大谷の契約で明らかになったように10年契約の大谷と一蓮托生で立場は保証されている。ロバーツ監督もそこは覚悟をしていて、春のキャンプでは「9年目にして最も厳しいシーズンになる。なぜなら、チャンピオンシップを獲得しなければ達成感が得られないから。私たちは必ず勝たなければならない」と語っている。

 メジャーの監督に求められる資質は変わった。ただ、結果がすべてなのは変わらないのである。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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