ドジャース世界一へのカギは走者・大谷翔平にあり マッカロー一塁コーチとロバーツ監督が説くその重要性 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【ロバーツ監督が走者・大谷に求めること】

 それでも、以前より盗塁を狙いやすくなったことは確か。冒頭で触れたように、現在のMLBは投高打低で、長打は続かない。

 MLBにはニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジやフアン・ソト、ブレーブスのマーセル・オズナ、フィラデルフィア・フィリーズのブライス・ハーパーのような偉大なパワーヒッターがいるが、パワーとスピードの両方で脅威になる選手はそうはいない。ブレーブスのアクーニャが戦線離脱した今、あえて挙げればボルティモア・オリオールズのガナー・ヘンダーソン、ロイヤルズのボビー・ウィットあたりだ。だから、ドジャースはもっと大谷に走る機会を与えるべきだと思う。

 ちなみにデーブ・ロバーツ監督は、走塁のエキスパートだ。現役時代、公式戦での盗塁は通算243個、成功率80.7%を誇った。加えて、ポストシーズン史上に残る有名な盗塁を決めている。

 2004年のア・リーグ優勝決定シリーズ、ボストン・レッドソックスはヤンキース相手に3連敗を喫し追い詰められていた。第4戦も9回裏3対4で、ヤンキースの投手は抑えの絶対エース、マリアノ・リベラ。敗北濃厚だった。

 だが、四球で出塁したレッドソックスの先頭打者の代走にロバーツが起用されると、次打者の時に二盗に成功し、中前適時打で同点のホームを踏んだ。試合は延長に入り、12回サヨナラ勝ち。勢いに乗ったレッドソックスはその試合も含めて4連勝を果たし、歴史に残る大逆転を達成。ワールドシリーズも制したレッドソックスにとって、ロバーツの盗塁は86年ぶりの世界一につながる偉業だった。だから、スピードを生かすことの重要性を、誰よりもよくわかっている。

 ロバーツ監督に「大谷の足への期待は?」と聞くと、「スピードは敵の守備陣に混乱を引き起こす。そして翔平は速いから、アグレッシブに走ってほしい」と言う。

 現役時代、自身の盗塁成功率が高かった理由については、こう説明した。

「私は投手の癖を徹底的に研究した。そのうえで可能な限り大きなリードを取った。牽制で刺されることをまったく恐れていなかった。そうすることによって相手投手や捕手に大きなプレッシャーをかけられると思っていた」

 とはいえ、闇雲に走っていたのではなく、重要なのは適切な状況判断だと言う。

「私はいつもスコアボードを見ながら走っていた。イニング、アウトの数、何対何のスコアか、それによってアグレッシブに走ってよいかどうかは変わってくる」

 大谷にも、その判断力を磨くよう求める。MLBでは盗塁成功率は80%を超えていることが重要と言われる。それなら積極的に走っていいし、それ以下なら決してよい作戦とは見なされない。大谷の成功率は、エンゼルス時代が72.3%だが、今季ドジャースでは15回決め、成功率は93.7%だ。

 二刀流に戻って投げる来年以降は、そんなに走れない。今年は世界一のために、大谷の脚力を生かせる最大のチャンスなのである。

プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る