ドジャース世界一へのカギは走者・大谷翔平にあり マッカロー一塁コーチとロバーツ監督が説くその重要性 (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【マッカローコーチが語る走者・大谷とMLBの走塁】

 大谷が一塁に出塁した時、ヘルメット同士で「ヘッドバンプ(head bump)」をすることで日本のファンにも有名なクレイトン・マッカロー一塁ベースコーチに、「ドジャースのチーム盗塁数はシンシナティ・レッズやワシントン・ナショナルズなどに大きく水を開けられているが(両チームとも100以上でドジャースは50以下)」と聞くと、こう説明した。

「若くて身体能力の高い選手が多くいるチームは、走らせる。うちはあの両チームのようにはいかない。チーム構成が違うからね。ただし、うちもホームランだけに頼るのではなく、いろんな手段で得点することを目指している。走者を溜めて、長打で大量得点を挙げられればいいが、好投手との対戦では、そうはいかない。だから盗塁も含めて、ベースランニングがとても大事になる。抜け目ない走塁を徹底することで、たくさんの試合に勝てるし、ワールドチャンピオンを狙うこともできる」

 もっとも野手が積極的に走らないのには、理由がある。それが高評価として給料に反映されにくい現実があるからだ。昨季73盗塁のロナルド・アクーニャ(アトランタ・ブレーブス)を取材したブレーブス担当のデーブ・オブライエン記者が次のように説明してくれる。

「今のメジャーでは20代後半になると、走れる選手でも走らなくなる。足に疲労が溜まって、ケガのリスクが高まるし、何よりホームランにはお金を払うけど、盗塁にはお金を出さないからね。ルール変更で盗塁は増えるだろうけど、年齢を重ねた選手は走るのを断念せざるを得ない。30代になれば、なおさらその傾向が強くなる」

 しかし今年、30歳になる大谷は、走ることに意欲的だ。春季キャンプから走るためのトレーニングに積極的に取り組み、ドジャース関係者を驚かせていた。マッカローコーチも、その姿勢に脱帽する。

「翔平はキャンプから走ると言っていたし、そのためのトレーニングに時間を割いていた。今年は野手専念でそこにエネルギーを注ぎ込めるからね。スピードがあることは前から知っていたが、ここまで一緒にやってきて気づいたのは、とても頭のいい選手だということ。事前にこちらから投手の癖などを伝えるのだが、フィールドで私の気づかないことを見つけてくれる。そして見事なスタートを切る。もっと自信を持って走ればいい。この面についても翔平の可能性は無限大。シーズンを通してどこまで走れるか楽しみだ」

 MLB機構も背中を押してきた。野球の娯楽性を高めるべく、アグレッシブなベースランニングを増やそうと、2023年からベース自体を大きくし、牽制球の回数を制限した。しかしルール改正2年目、リーグで盗塁が増えるかと思いきや、必ずしもそうはなっていない。その理由は盗塁が選手のサラリーに反映されない事実がある一方、各球団が新ルール施行2年目で、盗塁阻止の対策を練ってきているという事実もある。

 マッカローコーチは、証言する。

「投手はクイック(の投球動作)が速くなり、ボールをホールドする時間にも変化をつけ、簡単にスタートを切れないようにしている。捕手のポップタイム(ボールをキャッチしてから送球がベース上に到達するまで)も短縮されている。近年、捕手はフレーミング重視で構え方もスタンスも、いかにストライクを奪うかを重視したものになっていた。ゆえに二塁や三塁に素早く投げられず、送球も正確ではなかったが、チームにもよるが、そこも改善されている」

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