大谷翔平、「プロの打者」へ変化 ボール球を振る確率が減少し醸成される「王者」への機運 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【真の『プロの打者』に近づく適応力】

 打撃のアプローチでも変化が見える。身体が大きく腕も長い大谷は、アウトサイドのボール球でもバットが届くし、長打も打てる。実際、昨季は7本、ボール球をさく越えにしていた。しかしボール球に手を出し続ける打者は、敵側から見れば必ずしも一番怖い打者ではない。ドジャースのGM特別補佐で、かつてはミルウォーキー・ブルワーズ、ボストン・レッドソックスの監督を務めたロン・レネキーが12日の試合の前にこう教えてくれた。

「球界では、『プロフェッショナルな打者』と呼ぶ。もちろんメジャーリーガーはみんなプロなんだけど、状況に応じてチームが求めるバッティングができるのが、『プロ』という意味だ。

 松井秀喜やボビー・アブレーユは、そういうタイプだった。それ以上に傑出してすごかったのは、レッドソックスのマニー・ラミレスとデビッド・オルティスの3、4番打者で、当時みんなが本物のプロと恐れていた。理由はボール球をまったく振ってくれないから。追い込んでボールになるブレーキングボールを投げても手を出さない。彼らを打ち取るにはストライクを投げるしかない。でもストライクだとヒットになる確率は高まる。こういう打者は本当に厄介なんだ」

 大谷はアグレッシブな打者であり、それが持ち味でもあるが、少しずつ、レネキー氏が意味する「プロの打撃」にアジャストしているように見える。今季ボール球を振る確率は2023年の29.7%から26.3%に減り、空振り率も32.3%から26%に激減している。三振率は19.4%とメジャー平均を下回った。ちなみに2021年は29.6%だった。

 15日、敵地オラクル・パークでのサンフランシコ・ジャイアンツ戦。2度も見逃しの三振を喫した。3回の第2打席は1ボール2ストライクからボールになる低めのスイーパーを見送ったが、球審はストライク判定。首を振りながら苦笑いでベンチに戻った。7回の第4打席も同じ1ボール2ストライクから外角高めのボール球の直球を見送ったが、またしてもストライク判定。ここでも、不満そうな表情でベンチに戻った。

 2度の見逃し三振。大谷のアプローチをどう思うかという筆者の質問に、ロバーツ監督は「あれでよかったと思う」と大谷の判断を評価している。

「ストライクにも、ボールにもなり得るコースだった。自分のアプローチを信じて、ボーダーラインの判定で不利になることもあるが、今日はほかの打席では2本ヒットを打って、四球も選んでいる。翔平の今日の打席のクォリティはすばらしかった。ジャイアンツとの3連戦はすべてよかった」

 1番ベッツ、3番フレディ・フリーマン、4番スミスらとともにみんなで相手先発投手が嫌がるプロの上位打線を形成しているのである。

 14日のジャイアンツ戦後、『オレンジカウンティレジスター』紙のビル・プランケット記者が「フィールド内外でいろんな対応が必要とされたなか、それを乗り越えて打者として開幕からよい成績残している」と水原スキャンダルの影響に絡んだ質問を大谷に投げかけると、「最初のほうはいろいろあったので、ちょっと睡眠が足りてない日が続いていたんですけど、最近は時間にもだいぶ余裕が出てるので、いい睡眠を取って1日1日大事にプレーできているかなと思います」と説明した。

「いつからそうなれたのか?」と重ねて問われると「物事が進展して、いろいろ新しいことがわかって、自分のやるべきことも出して(捜査への協力)、いったん解決した段階では、僕のほうからやることはなくなったので、その段階で、かな」とつけ加えた。

 大谷は昨年12月の入団会見で「一番大事なのは全員が勝ちに、同じ方向を向いていること。オーナーグループ、フロント、チームメート、みんながそこに向かっていけるかだ」と話した。大谷もドジャースも着々と、そういう形になっている。

プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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