田中将大がプレーオフで記録的すごさ。「伝家の宝刀」復活で無双状態だ (2ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by getty Images

 不調の最大の原因として、公式球の縫い目が低い影響からかスプリットが落ちなくなり、修正に苦しみ続けたことはさまざまな形で語られてきた。田中は一時、悩みに悩んだ。その過程で、「切り札の握りをよりフォークボールに近いものにする」という抜本的な修正にも取り組んだこともあった。

 世間的には「この修正が功を奏した」と認識されているが、実は田中は数度の登板のあと、結局は握りを元に戻していたという。

「深く握った数試合も、思ったような打者の反応は得られなかった。確かに落ちているけれど、ちょっと自分の中では違うかなと。それで、今までの握りで得た感覚を生かしながら投げたら、空振りも増えた。やっぱりこっちのほうが、自分の感触、バッターの反応としてはいいのかなと思いましたね」

"伝家の宝刀"を巡る紆余曲折を聞くと、今季の田中がどれだけ苦しんできたかがわかる。磨き上げられてきた武器だからこそ、修正は難しかった。絶対的な自信を持ってきたスプリットの威力を回復させるために、どれだけの時間と努力を費やしてきたのだろうか。

 しかし――。持ち前の適応能力は健在だった。田中の修正は徐々に形になり、スプリットは再び研ぎ澄まされ、1年でもっとも大事な時期にベストに近い状態で臨めているようだ。

「よくなっている感触はある。トライしたことは無駄じゃなかった」

 9月には、そういった手応えを感じさせる言葉が増え、同時にスプリットは確実にキレを取り戻していった。プレーオフに入って以降も、ツインズと対戦した地区シリーズ第2戦ではスプリットで空振り7つ。今回のアストロズ戦でも効果的なタイミングで投げ、切れ味鋭いスライダーと双璧の武器になった。制球力と投球術に加え、切り札が威力を取り戻したとなれば先行きは明るい。

「集中し、自分の体を制御する術を知っている選手が、重要な舞台でも力を発揮できる。彼はそれがとても上手なんだ」

 アーロン・ブーン監督もそう絶大な信頼を寄せるビッグゲーム・ピッチャーは、このままヤンキースを頂点に導くのか。まだ先は長く、息の抜けない戦いが続く。それでも今の田中には、大舞台での強さと、試行錯誤を繰り返して答えを見つけたスプリットがある。苦しんだシーズンの最後にワールドシリーズまで駆け上がり、そこでも勝利の立役者になれたとしたら、波乱の1年のフィナーレはこれ以上ない美しいものになる。

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