伝説のノーヒッターの夜。ロイ・ハラデイは白い炎となって燃えていた (2ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Getty Images

 ブルージェイズとフィリーズという、両リーグの東地区のチームに属していたハラデイのキャリアを、筆者は頻繁に現場で目の当たりにする幸運に恵まれた。最も印象に残っているのは、やはり2010年の地区シリーズ第1戦で達成した、MLBプレーオフ史上2度目となるノーヒット・ノーランである。

「毎日、フィールドに来るのが楽しみで仕方がない」

 ブルージェイズ時代はチームとしての成功に恵まれなかったハラデイが、フィリーズ移籍1年目のこの年、生き生きとした笑顔でそう語っていたのが思い出深い。生涯初となるプレーオフでの先発機会が訪れたのは10月6日。チーム打率、得点、本塁打数のすべてでリーグ1位だったレッズを相手に、通称"ドク・ハラデイ(19世紀のガンマン、ドク・ホリデーに名前が似ていることから)"は圧巻の投球を見せてくれた。

「このゲームをまだ見ていない人は、早く見始めるべきだ」 

 試合が5回くらいまで進んだ頃に、筆者はそうツイートしたのを覚えている。この日のハラデイは、速球、チェンジアップ、カーブ、カットボールのすべてが恐ろしいほどに切れていた。"快挙の予感"は、かなり早い段階からスタジアムにが漂っていたが、ハラデイはその期待を裏切らなかった。104球中79球がストライク、8奪三振、1四球という素晴らしい内容で、楽々とノーヒット・ノーランを達成してしまったのだ。

「これまで目撃したなかで、最も支配的な投球」

 当時、『スポーツ・イラストレイテッド』誌に属していた、著名な記者のジョン・ヘイマンはそう記していたが、筆者も同じ想いだった。舞台の大きさを考慮すれば、それまでの取材歴で最高のピッチング・パフォーマンス。白い炎が燃え盛るような静かな気迫は、記者席まで伝わってきた。重圧のかかるプレーオフデビュー戦で快投したピッチャーに対し、畏敬の念すら抱いたのだった。

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