悪の帝国を蘇らせた、田中将大獲得の2つのメリット (2ページ目)

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji
  • photo by Getty Images

 昨シーズン、ア・リーグ東地区3位に終わり、5年ぶりにポストシーズン進出を逃した屈辱が、伝統球団のプライドに火をつけたと見る向きもあるが、「事実は違う」とヤンキース関係者が面白い話を教えてくれた。

「年俸総額を1億8900万ドルに抑えることは、昨シーズンの成績に関係なく、球団としてのゴールだった。事実、マキャン、エルズベリー、ベルトランの補強をした時点では、ぜいたく税を支払う規定額の1億8900万ドルまで十分余裕があった。そこで首脳陣はある決断をした。田中が獲れるなら規定額を超えることもやむなし。獲れなかった場合は予算厳守だ」

 ヤンキースにとって、先発投手の補強は最重要課題だった。サバシア、黒田、イバン・ノバのあとに続くスポットが空席であり、球団首脳は米国のマーケットに出ているFAの先発投手と田中を比較した。メジャーでの実績のない田中だが、マーケットのFA投手は全員が30歳を過ぎており、大きな成長は望めない。一方の田中は、25歳と伸び盛りであり、ピークはこれからやってくる。近い将来、ヤンキースのエースになる可能性は十分にある。

 そしてもうひとつ見逃せないのがドラフトの上位指名権だ。FA投手の獲得は指名権を失うが、田中獲得の場合はそれがない。つまり、お金だけの問題で済むというわけだ。これが田中獲得に全力を傾けたヤンキースの事情である。

 田中が契約発表の席で、「最大限の評価をしていただいた」と語ったように、ヤンキースの条件が他球団を大きく凌いでいたことは明白だ。その田中にヤンキースが支払う今季の年俸は2200万ドル(約23億円)。そして、出場停止となったアレックス・ロドリゲスの支払い免除額もおよそ2200万ドル。これは偶然の一致ではなく、ヤンキースが使えるお金のすべてを田中に投資したと見ていい。

 背番号も19に決まり、次はニューヨークでの入団発表を残すのみとなった田中だが、辛辣なことではメジャーでいちばん有名な街、それがニューヨークである。これからその洗礼が待ち受けるであろうが、田中が語った「背負えるものは背負う。向こうで世界一をつかみ取るための戦力として行く」の言葉を聞き、"志ある者は事ついに成る"を思い出した。新たなる世界に挑む田中将大の挑戦が楽しみでならない。

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