岩隈久志がダルビッシュ有より勝っている点 (3ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu
  • photo by Getty Images

 ただ、メジャーで球数を記録するようになったのは最近のことで、マダックスの絶頂期だった1990年代のデータは残っていません。よって、データの現存する2002年から引退する2008年までの7年間の記録を見ると、マダックスの1イニングの平均球数は、なんと13.5球。サイ・ヤング賞を筆頭に、最優秀防御率や最多勝などタイトルを総ナメしていた1990年代ではなく、比較的晩年の時期に13球台というのは、まったくもって驚異的です。

 そして、何より注目すべきは、マダックスは球数を抑えたことにより、ケガとほぼ無縁の現役生活を送った点です。23年間のプロ野球人生で、故障者リスト入りしたのは2002年の1回のみ。それも肩やひじの故障ではなく、背中の痛みで少し休んだだけでした。その結果、マダックスは1988年から2006年までの19年間で18度も200イニング以上投げ、その期間中にメジャー記録となる17年連続15勝以上をマーク。最終的に歴代8位となる通算355勝を挙げました。また、通算109完投という驚くべき記録も残しています。球数が多いと完投させてもらえない現代のメジャーでは特筆に値します。

 今シーズンの岩隈投手は、まさにマダックスの目指した「究極のピッチング」を体現するかのような出来栄えです。現在、64イニング3分の2を投げて合計915球。このペースで200イニング投げた場合、1シーズンで合計2832球にしかなりません。普通200イニング投げれば、1イニング16球で抑えても3200球になり、3千球以上は軽く越えるものなのです。1イニングの球数だけ見るとわずかな差ですが、1シーズン、そして長い年数で考えると、大変な違いが出てくるのです。実際、球数を抑えるとケガなく長い間プレイできるということは、マダックスが証明しています。現代の野球において、いかに球数が大事か分かるでしょう。

 開幕前、岩隈投手に対して心配していたのは、「中4日のローテーションでシーズンを乗り切れるのか」ということでした。しかし、今のような1試合90球程度の球数なら、シーズンを通して中4日のローテーションも大丈夫かと思います。監督にとっても、ケガなくコンスタントにローテーションを守るピッチャーは、今後も重宝されることでしょう。かつて、いろんな日本人投手が「和製マダックス」と呼ばれましたが、今の岩隈投手こそ、その名称がふさわしいと思います。

※現地5月20日現在

プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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