【MLB】松坂大輔、順調とは言えなかった「最後の90日」 (2ページ目)

  • 水次祥子●文 text by Mizutsugi Shoko
  • photo by AP/AFLO

「投げながら思ったのは、まだゲームモードじゃないなと。そういうところの気持ちの切り替えもしていかないといけない」

 さらに、中4日で登板を重ねていく中で、手術した右肘の状態は、その都度変わっていった。5月7日の3度目のリハビリ登板の際には、右肘に重い感覚があるまま投げた。球は走らず制球にも苦しんだ。そのうち首から肩にかけて張りが出るようになり、当初予定していた30日間のリハビリ登板期間を延長することになった。思い通りにいかないことに、松坂は不安を募らせた。

「(ボールが)違うところにいってしまう。それがちょっとした誤差ならいいんですけど、はっきり違うので。そのことにストレスを感じます」

 それでもメジャー復帰が近づくにつれて、「もう開き直るしかないですね」と割り切ることにした。そう思えたのは、同じ手術をしたチームメイトから何度も話を聞き、その選手たちも復帰していく過程で同じ経験をしていたからだった。

 5月上旬のボルティモア遠征の時には、数年前にトミー・ジョン手術を経験している元中日のウェイン・チェンに相談し、「張りが出るのは普通のこと。心配することじゃない」と言われ、安堵した。復帰してからも右肘が張ることは何度もあるだろうし、それとうまくつき合いながらやっていくしかない。そう松坂本人が開き直れたものも、チェンの言葉とは無関係ではないだろう。

 そして松坂は、メジャー復帰後の自分を想像しながら、「(自分のピッチングは)こういう感じになるのかな」と何度も頭の中でイメージした。「正直言って、こんなピッチングは面白くないんですけど、手術してまだ1年だから、あまり高望みせずにやっていきたい」と現実を受け止めた。そしてメジャー復帰登板を終えた松坂はこう語った。

「今後は新しい自分を見てもらえるかな。それはできると思う」

 そう話す松坂の表情には、確かな"希望"がのぞいていた。

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