夏の甲子園でヒットを目指した「地方大会打率0割台」8人の物語...悔しさと苦しさと恥ずかしさと (4ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka

 あくまでも自分のメインは守備。打撃よりも守備で貢献するのが仕事と自負する。だが、そんな自分がヒットを打つとチームが盛り上がる。ベンチが明るくなるのを実感している。

「守備の人なんで、チームバッティングを継続していきます。もちろん、チャンスになったらヒットを狙います」

【プロ注目の投手からタイムリー】

 地方大会の打率0割台の打者が、プロ注目投手からまさかのヒットを打った。熊本工のエース・山本凌雅だ。熊本大会では14打数1安打の打率.071。甲子園初打席は広陵(広島)のエース・高尾響にあっさりファーストゴロに打ち取られたが、第2打席は違った。

 0対0で迎えた5回裏、二死三塁の好機で打席が回ってきた。初球、142キロのストレートを見送り1ストライクとなったあとの2球目。つづけて投げてきた内角直球にバットを出した。打球は高いバウンドでセンター前に抜ける先制のタイムリーヒット。7回表に逆転され、結果的に1対2で敗れたが、優勝候補を相手にあわやと思わせる好試合を演出した。

「第1打席に真っすぐで抑えられていたので、あの打席は『真っすぐが来るだろう』と張ってました。バッティングに自信ですか? そこまでないです」

 県大会と甲子園は別の大会。ここまで紹介した地方大会打率0割台の選手たちは気持ちを切り替えて甲子園で安打を記録したが、ひとりだけ「H」ランプを灯せなかった選手がいる。鳴門渦潮のレフト・高田圭哉だ。徳島大会は背番号10ながら全試合に出場。決勝では5番を任されたが、通算で15打数1安打(打率.067)しか打てなかった。

「初めは『別に打てるやろ』という軽い気持ちだったんですけど、一本しか打ててなかったんで......」

 周囲からは「ちゃんと打てよ」と冷やかされもした。そのうちに、結果を出さなきゃという気持ちが生まれ、余裕を失ってしまった。

「打てなくなって、思い切りがなくなってしまいました。ボールを見るようになって、打つ準備ができていない状態でしたね」

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