夏の甲子園でヒットを目指した「地方大会打率0割台」8人の物語...悔しさと苦しさと恥ずかしさと (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka

 小松大谷のセンター・坂田陸も石川大会では13打数0安打だった。

「気持ちの部分で焦りがありました。考えすぎて、守備のときにもバッティングのことを考えてしまいました」

 せっかく甲子園に来たんだから、野球を楽しんで、胸を張ってやる。強気でバットを振っていくと決めた。

 明豊(大分)との初戦。第1打席はライトフライに倒れたものの、3球ファウルを打った。第2打席もファーストストライクからストライクは全部打ちにいった(セカンドゴロ)。第3打席は2球見送って2ストライクと追い込まれたが、変化球に食らいつく。打球はライトの前で弾み、待望の初ヒットになった。

「2ストライクになったのでノーステップに変えました。自分は打てる打者じゃないんで。何も考えずに思い切っていくことだけ考えました。いつもならもう一個(体が)前に出されるんですけど、ボールが見えました」

【「打てないこともあるっすよ」】

 地方大会でヒットこそ出たものの、打率0割台の選手は5人いた。鶴岡東(山形)の捕手・億田知輝は15打数1安打の打率.067。捕手は守備優先とはいえ、「けっこう悩みました」と苦笑いする。

「打ちたい気持ちが強くて、右肩の開きが早くなっていました。周りからは『ノーヒットやん』とか言われました。そう言われても、明るくはしていましたけど......」

 山形大会後、佐藤俊監督のアドバイスでバットを変えた。

「気持ち的な面が大きいんですけど、バットをトップバランスのものに変えました。変えてみて、力が抜けて振りやすくなった感じがします」

 甲子園では初戦の聖光学院(福島)の第2打席でストレートを逆方向に弾き返すレフト前ヒットを放つと、第4打席では三塁前にセーフティーバントを敢行。ライン際ぎりぎりに転がした打球は三塁手が見送ったが、ベースに当たって内野安打になった。

 一本出たことで気持ちがラクになり、「冷静にバントすることができました」。バットを変え、気分転換したことが大舞台での2安打につながった。

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