「紀州の角中勝也」和歌山東・谷村剛は木製バットでヒットを量産 初見の投手でもフルスイングできる強みでプロを目指す (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

【木製であれだけ振れる選手はいない】

 和歌山東の米原寿秀監督は、2010年に軟式野球部から硬式野球部に移行したばかりの同校をゼロから育て上げた指導者だ。教え子には津森宥紀(ソフトバンク)らがおり、2022年春には甲子園初出場へと導いている。

 米原監督はプロ志望の教え子であっても、メディアやスカウトに対して過剰なプレゼンテーションをする指導者ではない。選手のいい部分も悪い部分も、包み隠さずに伝えることが選手の将来につながると考えているからだろう。

 その米原監督が谷村に「プロを狙え」と伝えたということは、相当な自信があるのではないか。そう推察して米原監督に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「木のバットをあれだけ強く振れる選手は、近畿地方にもそういませんから。どんなタイプの投手が相手でも、強いスイングができるのが強みです。体もまだまだ大きくなるはずですし、伸びしろがあります。レベルの高い世界で技術を吸収した時、もっと成長できる選手だと感じています」

 高校時代に本塁打を量産した打者であっても、プロ入り後に木製バットへの順応やキレのあるボールの前に伸び悩むケースも多い。だが、谷村のように打撃の引き出しが多く、初見の投手にも強く振っていける打者なら、ハイレベルな環境に順応するスピードも早いのだろう。

 夏に向けての課題を聞くと、谷村はやや浮かない表情でこう答えた。

「今日は、単打はよく出たんですけど、最近、打球が上がらないんです。突っ込んでしまうクセをなくして、打球に角度をつけていきたいですね」

 金沢との練習試合のあと、谷村は練習試合で4本塁打を重ね、高校通算本塁打数は23本になった。夏の和歌山大会は7月13日、南部龍神との初戦を迎える。

「気持ちを前面に出す野球で、チーム一丸となってやっていきたいです」

 そう言って、谷村は口元を引き締めた。初見殺しの「紀州の角中勝也」は、第1打席のファーストスイングから見逃せない。

著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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