「清原和博、桑田真澄の1年生の起用は上級生の反発もすごかった」PL学園元監督の中村順司が明かすKKコンビ秘話 (3ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

●清原和博がピッチャーを諦めた理由

 そして、KKの3年間でターニングポイントといえる試合が、翌1985年センバツで敗れた準決勝・伊野商(高知)戦である。

「相手投手はのちに西武で活躍する渡辺智男。清原はこの試合で完全に抑え込まれ、3三振だった。試合後バットを片づけながらしゃくりあげ、相当に悔しかったんでしょうね。

 学校に帰ってミーティングをし、解散後しばらくして私が帰ろうとしたら、室内練習場からものすごい音が聞こえてくるんです。行ってみると、清原が上半身裸で鬼の形相でマシンを打っていた。それも人の力では到底投げられないであろう、最速のボールをです」

 最後の夏に向けて、仲間にも大きな刺激を与えた清原の有名なエピソードである。そんな選手たちの努力が爆発したのが、1985年夏の初戦・東海大山形戦だ。毎回得点の29−7で相手を一蹴。点差が大きく開いたこともあり、この試合で9回にマウンドに立ったのが、なんと清原だった。

「補欠の選手をみんな投げさせていたら、清原が投げたそうな顔をしている。彼はもともと投手だったんです。投手を断念するひとつのきっかけとなったのが、1年の時にホームベースからライトのポール方向へ遠投させたときのことです。

 一緒にいた桑田が、回転のいいボールを低い弾道でシューッと立て続けに投げた。私もコーチと目を合わせ、こいつはスゴイと思いましたよ。清原はそんな桑田を見て、打者に専念することを決意したんだと思います。普段からバッティング投手をやっていたので甲子園のマウンドに上げましたが、相手の反撃を受けながらも試合を締めてくれました」

 決勝戦の宇部商(山口)との試合は、相手に再三リードを奪われながら、清原の2打席連続ホームランで同点に追いつきシーソーゲームとなった。決勝打を打ったのは、主将・松山秀明。ランナーを二塁においてフルカウントから右中間を破るヒットを放ち、劇的な勝利でPLは優勝を飾った。

 この日の清原のホームランは、大会新となる5本目(当時)。なおかつ春夏通算13本の金字塔を打ち立て、その記録は今も破られていない。桑田は連投で疲労困憊の状態だったが、ひとりで投げきりこちらも前人未踏の春夏通算20勝目をあげた。

「桑田には、抑えるにはインコースを使ったらいいんじゃないかと言っていたんです。そのほうがラクだろうと思ったからですが、首を縦には振りませんでしたね。一途にストレートをアウトコースにビシッと決め、そのあとカーブで打ち取る戦法を崩さなかった。

 生命線はアウトコースのコントロール。このスタイルを固めたうえでステップアップしようという考えを最後まで貫いていた。桑田にしても清原にしても、本当にすごい選手に出会ったなと思います」

PL学園監督として甲子園20連勝や春夏連覇の偉業を成し遂げた 写真/スポルティーバPL学園監督として甲子園20連勝や春夏連覇の偉業を成し遂げた 写真/スポルティーバこの記事に関連する写真を見る(文中敬称略)

中編<「立浪和義・片岡篤史は徳を積むために草むしりをしていた」PL学園元監督の中村順司が甲子園春夏連覇の偉業を振り返る>を読む

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【プロフィール】
中村順司 なかむら・じゅんじ 
1946年、福岡県生まれ。自身、PL学園高(大阪)で2年の時に春のセンバツ甲子園に控え野手として出場。卒業後、名古屋商科大、社会人・キャタピラー三菱でプレー。1976年にPL学園のコーチとなり、1980年秋に監督就任。1981年春のセンバツで優勝を飾ると、1982年春優勝、1983年夏優勝。1984年春の決勝で敗れるまで甲子園20連勝を記録。1998年のセンバツを最後に勇退。18年間で春夏16回の甲子園出場を果たし、優勝は春夏各3回、準優勝は春夏各1回。1999年から母校の名古屋商科大の監督、2015〜2018年には同大の総監督を務めた。

プロフィール

  • 藤井利香

    藤井利香 (ふじい・りか)

    フリーライター。東京都出身。ラグビー専門誌の編集部を経て、独立。高校野球、プロ野球、バレーボールなどスポーツ関連の取材をする一方で、芸能人から一般人までさまざまな分野で生きる人々を多数取材。著書に指導者にスポットを当てた『監督と甲子園』シリーズ、『幻のバイブル』『小山台野球班の記録』(いずれも日刊スポーツ出版社)など。帝京高野球部名誉監督の前田三夫氏の著書『鬼軍曹の歩いた道』(ごま書房新書)では、編集・構成を担当している。

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