「甲子園にのまれていた」大島高校外野陣にネット上で罵詈雑言。選手は「守るのが怖くなった」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 だが、彼らのなかにはもやもやと消化しきれない感情がくすぶり続けた。ある日、青木と直江は「ネットの反響を見てみよう」と誘い合った。今まで触れずに閉じてきた扉を開けると、そこには「大島の外野は下手くそ」といった無遠慮な罵詈雑言が渦巻いていた。

 直江は「世間から見たらこんなひどい言われようなんだな」と実感した。そして、「もう見たくないです」と苦笑する。

 一方の青木は気丈にも「いろんな意見はあるはずだし、外からの声はあまり気にしないタイプなのでダメージはありません」と語る。

 だが、大舞台で負った傷は、無意識のうちに青木の心を蝕んでいた。青木は「甲子園から守るのが怖くなった」と打ち明け、こう続けた。

「フライを捕れないから捕ることに焦ってしまって、『すぐ投げよう』と思うと投げるほうも悪くなって。ひとつ悪くなると、全部崩れてしまいました」

 得意の打撃面は好調でも、守備に関してはすっかり自信を失ってしまった。「何をやってもうまくいかない」と悩み、もどかしい日々が続いている。

甲子園は孤独感を覚える場所

 青木の再起を指導陣も期待して見守っている。泊慶悟コーチもそのひとり。泊コーチは2014年に大島が21世紀枠でセンバツに出場した代のレフトである。現在は奄美市役所に勤務する傍ら、休日は母校の指導を手伝っている。

 自身も甲子園を経験したことで、実感したことがあると泊コーチは言う。

「甲子園は孤独感を覚える場所だと選手には伝えていました。いざ、その場に立ってどうこうしようと思っても、染みついた習慣は抜けないもの。嘘のつけない、怖い場所だと感じました」

 8年前の甲子園は、名門・龍谷大平安(京都)を相手に試合中盤まで接戦を演じた。だが、牽制死などでチャンスを潰し、流れをつかめなかった。終盤に引き離され、2対16で大敗。自身はエラーこそ犯さなかったものの、同じポジションに立った青木の痛みは泊には誰よりも理解できる。

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