驚きの人事異動に「そんなことが起こるのか」。名将が挑む松山商の復活「古豪と言われてもなんの得にもならない」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 大野監督は野球部寮に併設された住宅に住み、寮生と寝食をともにしている。また、今治市役所に勤めていた妻・史子さんは大野監督の異動に伴って退職し、2020年5月以降は事実上の寮母となり選手たちの食事をつくるようになった。家族のサポートを得て、新生・松山商はスタートしている。

 現在の2年生は、大野監督が異動した年に松山商に入学している。2年生部員に話を聞くと、「父や中学時代の指導者が松山商OB」というケースが多い。

「両親が松山商出身で、父は『奇跡のバックホーム』(1996年夏)の代の2学年下でした。父からスタンドで応援していた話を聞いていました」(長田鼓吾郎/副主将)

「父が松山商OBで、シニア(えひめシニア)の指導者に3人も松山商OBがいたこともあって、もともと興味がありました」(丸山日向/遊撃手)

「父は軟式野球部だったんですけど松山商OBで、自分も高校は松山商一本で考えていました」(清家瑛/投手)

「中学のクラブ(松山ヤングエンゼルス)の監督、コーチが松山商OBで、県立で甲子園に行けそうなところと考えて入りました」(福積颯太/三塁手)

 ただし、現時点ではプロスカウトが注目するような有望選手がいるわけではない。主将であり、正捕手でもある西岡はこんな本音を打ち明ける。

「中学時代は済美でやってみたいと思っていたんですけど、実力的に足りないかなと自信がなくて。県立で野球をするなら松山商かなと思いました」

【復活へのたしかな手応え】

 能力的に突出した選手はおらず、コロナ禍で練習時間に制限もあった。それでも、大野監督就任以降の松山商は、愛媛大会で安定して上位進出している。

2020年夏(独自大会) ベスト8

2020年秋 ベスト8

2021年春 ベスト4

2021年夏 ベスト4

2021年秋 ベスト8

 今秋は俊足を生かして2番・センターとして活躍した重川太河(2年)は、大野監督から指導を受けた効果をこう語る。

「自分に何が足りないかを考えて練習する時間が増えました。中学時代はベンチからのサインどおりプレーするだけでしたが、今はバントのサインが出ても『1球目はバスターで揺さぶってやろう』と相手が嫌がるプレーを工夫してやっています」

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