走攻守の三拍子よりも和製大砲候補。「打てるだけの選手」でもスカウトが興味津々のワケ

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Okazawa Katsuro

 今年夏の甲子園で、あるスカウトがこんなことを口にした。

「盛岡大付はもう一回見ます。それと、智辯学園の前川(右京)も......」

 気になる選手がいたり、お目当ての選手が初戦で出場しなかったりすると、甲子園に残って視察を続けるスカウトがいるが、通常は各チーム1試合ずつ見て、ひと回りすると甲子園を去っていくものだ。

今年夏の甲子園で打率.455、2本塁打の活躍を見せた智辯学園の前川右京今年夏の甲子園で打率.455、2本塁打の活躍を見せた智辯学園の前川右京この記事に関連する写真を見る このスカウトの言葉を聞いた時、すぐに彼らの目的がわかった。キーワードは"和製大砲"。長打力のある選手の発掘である。

「少し前なら、いくらバッティングが優れていても、守れない、走れない選手は"一発屋"のひと言で片づけられていたのですが、近年はそういった選手もしっかり見ようと。打つだけの選手の見方が変わってきました」

 その背景には、山川穂高(西武)、岡本和真(巨人)、佐野恵太(DeNA)、村上宗隆(ヤクルト)らの活躍や、牧秀悟(DeNA)、林晃汰(広島)の台頭も見逃せない。

 アマチュア時代の彼らの評価は、非凡な打撃センスは認められていたが、「打つだけで走れない」「守るポジションがない......」とチームによって大きく分かれていた。だが、プロ入り後の彼らは持ち前の打撃力を発揮し、長距離砲としてチームに欠かせない存在となっている。前出のスカウトが言う。

「ホームランとか、長打力とか、プロ野球の華ってわかっていながら、"三拍子"揃った選手ばかり集めてきた結果、打線が小粒になり、迫力がなくなってきた印象があります。『このメンバーじゃ、ホームランなんて期待できないよ』ってチームがいくつもあります。これだと、高い金を払って試合を見に行こうとは思わないですよね」

 ペナントレースも残り30〜40試合になったが、いまだホームラン数が50本台のチームが2つもある。ホーム球場の大きさも少なからず関与しているが、それでもホームランを打てる選手が少ないというのは寂しい限りである。

 以前は、「この選手のホームランを見に行こう」と思わせてくれる選手が何人かいた。不動のレギュラーではなくても、ファンに人気のある選手となって、少なからず"集客"にも貢献していた。

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