「むしろ何の問題があるのか」。女子野球の監督がトランスジェンダー公表で予想外だった周囲の反応 (4ページ目)

  • 森大樹●文・撮影 text & photo by Mori Daiki

 碇は特別なことは必要なく、「大切なのは"普通"であること」と力説する。

「性別などカテゴリーで括るのではなく、一人ひとりの人間との繋がりで成り立っていることを感じられる社会になっていけば何も問題ないと思っています。僕はその状態を"普通"と表現しました。

 LGBTQ+に対しても何か特別な反応や接し方、話し方をせずに普通にしてくれることが一番だと思っています。そうなれば当事者たちも生きやすく、『自分も打ち明けてみよう』と思える社会になっていくのではないでしょうか。

 僕たちもどうしてこうなったのか、理由は知りません。でも、どうやったら性別が男になるのか、女になるのかはわからないですよね。だからLGBTQ+が扱われても特別じゃない世界になれば、誰も傷つかないと思います」

 東海NEXUSには碇を慕って、女子プロ野球時代の教え子たちも数多く在籍している。たとえトランスジェンダーであることを告白しても、彼女たちにとっては「碇監督」であることに変わりはなく、尊敬する"普通"の指導者である。

 2018年に碇は女子プロ野球・愛知ディオーネの監督としてチームを年間女王に導いた。屈託のない笑顔と、そこから放たれるポジティブなオーラ、語りかけるように選手に接する姿は、かつて碇美穂子として采配を振るっていた頃と何ら変わらない。

 次に目指すは中部地方での女子野球の発展と日本一の座。今度は碇穂として、宙を舞う日はそう遠くないはずだ。

(後編:働きながらのプレー。「球女」たちのリアル)

■碇穂(いかり・みのる)
1987年7月20日生まれ、東京都出身。埼玉栄高校2年時に、捕手として2004年女子W杯の日本代表に選出。2009年には日本女子プロ野球機構が実施した第1回合同トライアウトに合格し、同年12月のドラフト会議で京都アストドリームスに入団した。2014年シーズンで現役を引退してからは指導者として活躍。現在は2020年に創設した東海NEXUSの監督を務めている。2021年4月にはトランスジェンダーであることを公表した。

東海NEXUS 公式Twitter>>@TOKAI_NEXUS2020

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