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高校野球史に残る超ファインプレー。大阪桐蔭が強風をも味方につけて「東の横綱」に圧勝 (4ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Nikkan sports

 その風は、「打者・井上」をもアシストすることになる。

 まだ美守の余韻が漂う7回表。この回先頭で打席に入った井上は、2ボール1ストライクからの4球目、真ん中低めのストレートをすくい上げた。

「打った瞬間はセンターフライかと思った」という打球は、レフトから吹く強い風に乗り、スタンドに着弾した。

 大阪大会で打率4割4分8厘、3本塁打、13打点。打撃部門すべてでチームトップの数字を叩き出しながら、甲子園ではこの前の打席まで13打数3安打と当たりが止まっていた。それだけに価値ある一発だったし、なにより井上の夢が叶った瞬間でもあった。

「あれが入るなんて、かなり風が吹いていたんだなって思いましたけど、うれしかったですね。個人的に甲子園での唯一の目標というか、『ホームランを打ちたいな』って思っていたので」

 これでスコアは4対2。まだ僅差ではあったが、この本塁打で事実上、試合は決した。8回には井上の2点タイムリー二塁打など、6得点の猛攻。結局、11対2の大差で帝京を下し、ベスト4に進出した。

 強風は神風となって大阪桐蔭に味方した。そして、甲子園の女神は井上に微笑んだ。

 塀際の魔術師──井上はそう呼ばれた。この年を最後にラッキーゾーンが撤廃され、井上が見せたスーパープレーは二度と甲子園で見ることはできない。

 このフェンスにまつわる後日談がある。ラッキーゾーンが撤廃される際、甲子園球場の関係者から「フェンス、持っていかれますか?」と聞かれたが、井上は「いりません」と丁重に断ったそうだ。それでも知人からは「フェンス、もらったそうやな」と、たびたび聞かれるほどの都市伝説になったという。

 樹徳戦で主砲の萩原がチームに勢いを与え、秋田戦では澤村がチームを救った。そして帝京戦では井上が勝利の立役者となった。日替わりヒーローの誕生──いつしかそれは、大阪桐蔭の象徴となった。

「東の横綱」を寄りきったチームは優勝を意識するようになっていた。準決勝の相手は2年生の大型スラッガー・松井秀喜に注目が集まる星稜(石川)。ここでもまた新たなヒーローが誕生する。

(つづく/文中敬称略)

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