「すぐ辞めそうだった」男が大阪桐蔭のエースへ。センバツ初戦で快挙を達成した (5ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Okazawa Katsuro

 確信に近い手応えをつかんだのは4回だった。先頭を四球で歩かせた直後の打者を1球で併殺打に打ち取った。「今日は調子がいいんだな」と、和田の気分が乗っていく。マスクを被る白石も、和田の快投に酔っていた。

「右バッターに打たれる心配はしていなかったんで、左バッターだけ警戒していました。スライダーのキレは完璧だったんですけど、当てられた打球がポテンヒットとかになるのが嫌だった。だから、高めの真っすぐを使いながら、うまくリードできました。なんか和田が投げているんですけど、自分が抑えているようで楽しかったですね(笑)」

 凡打の山を築き、9回二死までノーヒット。そして27人目の打者への101球目。打球が三遊間の深い位置に飛ぶ。

「あっ、セーフだ」

 和田は直感的に思ったが、捕球したショート・元谷哲也の好返球が勝り、間一髪でアウト。内野ゴロ14、内野フライ1、外野フライ2、奪三振9、四球1。センバツ史上13年ぶり、史上10人目のノーヒット・ノーラン達成となった。

「『とりあえず勝てた』っていう気持ちのほうが強かったと思います。そこにノーヒット・ノーランがついてきたっていう感じですね」(和田)

 14安打10得点にノーヒット・ノーラン。完璧な勝利で甲子園1勝目を挙げた大阪桐蔭。

 だが彼らは、それがさも当然であるかのように、帰りのバスで「和田、あんま調子に乗んなよ!」と盛り上がる。そして快挙を達成したエースは、しっかりと上を見据えていた。

「僕ら、優勝すると思いました」

 衝撃的な勝利で、全国制覇への機運は高まっていった。

つづく

(文中敬称略)

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