大学ジャパンの遊撃手は社会人野球へ。なぜプロ志望届を出さなかったのか (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 大学2年時、児玉の人生は劇的に変わった。春のリーグ戦前までBチームにいた小柄な内野手が、開幕直前のオープン戦で抜擢され活躍。そのままレギュラーになり、春の大学選手権での活躍が認められ、大学日本代表まで上り詰めた。

 そんな児玉に2年時からラブコールを送り続けていたのが、大阪ガスの橋口博一監督だった。児玉は言う。

「こうして声をかけてくださったのも何かの縁なのかなと。自分が力になれることがあるなら、恩返しをしたいと考えています」

 当然、プロへ行くための「腰掛け」感覚で通用するほど、社会人野球は甘くない。大阪ガスは激戦の近畿地区で今年も第3代表を勝ち取り、3年連続26回目の都市対抗野球大会出場を決めている。社会人屈指の強豪ということは、社会人屈指のポジション争いが待ち受けていることを意味する。

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 児玉は自分の課題と向き合う覚悟を固めている。

「まだ体の線が細いので、ウエイトトレーニングで体をつくります。ただ体重を増やすだけだと動きが悪くなるので、速筋を鍛えて動ける範囲で体を強くしていけたら」

 大学最後のリーグ戦。10月11日の日本経済大戦では、児玉はインコースのストレートに瞬時に反応。満塁の走者を一掃するレフトオーバーの二塁打を放ち、勝利に貢献した。児玉は「また打順が下がるかな、と思っていたところを今日も2番で使ってもらえたので何とかしたかった」と、結果を残せたことに安堵した様子だった。

 遊撃守備ではセンター前に抜けそうな強烈な当たりを好捕するファインプレーを見せた。難しいショートバウンドを半身(はんみ)の体勢になって、グラブを打球の軌道に寄り添わせるようにすくいとる。対戦相手のスタンドからも「うぉ〜!」と絶叫が漏れるほどの美技で、チームを救った。来年は、こんな軽やかかつ堅実なプレーが社会人野球で見られるだろう。

 10月26日のドラフト会議に己の進路をかける者もいれば、あえて今はプロを選ばなかった者もいる。

 大学野球の牛若丸は、社会人の牛若丸へ。今から言っておこう。大阪ガスの試合は、試合前のシートノックから見なければ損である。

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