山田高校はなぜ履正社を撃破できたのか?「公立の奇跡」の舞台裏 (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 3回戦(清教学園戦)は不戦勝。4回戦からは浪速、上宮、大産大付と甲子園経験のある私立校を立て続けに破った。とくに大産大付戦は雨、風も味方にし、相手のミスをことごとく得点にしての逆転勝利。

 主将の尾崎紀昭は「大産大に勝ったところで、みんな近畿(大会)に行けるんじゃないか、行くぞと気持ちがひとつになった感じでした」と振り返った。

 しかし、そう簡単にさせてくれないのが大阪。準決勝では東海大仰星に1対11と圧倒され、6回コールド負け。ただ、夏ならここで終わるが、秋は近畿大会出場の3枠目を争う3位決定戦があり、翌日にもう1試合戦うことができた。

 とはいえ、3位決定戦の相手は準決勝で大阪桐蔭に敗れた履正社。東海大仰星戦の前、金子監督は選手たちに「見ている人たちは99%ウチが負けると思っている。これをひっくり返したらこんな面白いことはないぞ」と鼓舞したそうだが、その東海大仰星との戦いを見た報道関係者、大会関係者は100%履正社の勝利を信じたはずだ。しかし......。

「東海大仰星の時も履正社の時も、ウチが勝つなら最少失点で我慢して、ワンチャンスをものにする2対1しかないと思っていました」と金子監督は言ったが、まさにそのとおりの展開となった。

 最速130キロ出るかどうかという坂田が6回にホームランによる1点のみでしのぐと、9回表に1年生の4番・横田那音(なおと)が一死二、三塁からレフトオーバーの一打を放ち逆転。しかし、まだ履正社の攻撃は残っており、安心できるはずもない金子監督の頭にはひとつの記憶が蘇っていた。

 じつは2年前の秋、山田は履正社を相手に8回二死までリードという、大金星を手にしかかったことがあった。

「あの時は試合終盤にただならぬスタンドの空気を感じたんです。見ている人の『こんなわけのわからん高校に履正社が負けるんか』といった感じで......結局、最後はひっくり返されました(3対5)。その点、今回は無観客で、スタンドからのプレッシャーもなく、強豪校相手にもどこか練習試合のような雰囲気で戦えました。これはウチにとっては間違いなく大きかったと思います」

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