進学校の120キロ左腕が華麗に成長しプロを目指す。可能性にフタをしない (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 しかし、故障が癒えた大学最終学年を迎えた片山の前に待ち受けていたのは、コロナ禍だった。春のリーグ戦は中止となり、残された活躍の場は秋のリーグ戦のみとなった。

 それでも、3年秋以降の片山はいつも前向きだった。強豪大学や企業チームとのオープン戦で好投を続けていたからだ。

「僕のテイクバックが大きくなるのは、体の使い方が横振りだからだと思ったんです。極端に言えば横に振っていたものを縦に振るイメージでやってみたらハマりました。体に力を入れなくてもいいボールがいくようになって、徐々に再現性も出てきて、ピッチングがまとまってきました」

「ぐにゃぐにゃ」だった自分の体との付き合い方を覚え、力に換えられるようになった。そして、高校時代のような自信のなさそうな顔をすることがなくなっていた。

 9月13日、片山は神奈川大学リーグ・鶴見大との開幕戦に先発した。神奈川工科大学KAITスタジアムのマウンドに立つ片山は、身長174センチ、体重83キロのたくましい肉体を手に入れていた。

 球速は140キロ前後でも、多くの打者が高めのストレートに空振りし、ポップフライを打ち上げる。明らかに打者の手元でボールが伸びているのが伝わってきた。

 5回を投げ終えた段階で被安打1、奪三振6の無失点。片山の登板は高校時代から何度も見ているが、5イニングを投げ切ったシーンを初めて見た。

 その後はピンチをつくるものの、要所を切り抜けていく。ストレートだけでなく、スクリューのように落ちるチェンジアップが冴え渡った。高校時代からの軌跡を知る者としては、もはや取材対象というより一人の身内を応援する心情になってしまった。

──あんな頼りない高校球児だった片山くんが、こんなに堂々とマウンドで投げているなんて......。

 9対0と大量リードした9回表も、片山はマウンドに上がった。先頭打者にこの日初めての四球を許したものの、外野フライ2つで二死を奪う。最後はストレートで詰まらせて、ファーストフライに抑えた。

 先発投手としてリーグ戦初めての勝利、しかも完封したにもかかわらず、片山は淡々とベンチ前へと走り、試合終了の整列に加わった。「勝って当然」と言わんばかりの、エースの振る舞いだった。

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