高校で野球を終える3年生のリアル。帯広農は空中分解寸前だった
5月20日に高野連が夏の甲子園の開催中止を発表したことを受け、帯広農の前田康晴監督は、翌日、3年生全員で今後について話し合う場を設けた。この時点で夏の代替大会開催は決まっていなかった。
前田監督は「やると言うだろう」と思っていたが、そんな監督の思いとは裏腹に、話し合いは長引く。3年生18人のうち、やりたいと言ったのは2人だけ。やめたいと言ったのが5人で、残りの11人は「どっちでもいい」だった。
甲子園交流試合に出場する帯広農ナイン そこでどちらかに決めるため、一人ひとりがみんなの前でやるか、やらないかと言うことにした。すると、「どっちでもいい」と言っていた部員は「どちらかというとやめたい」に変わった。前田監督がもっとも信頼するキャプテンの井村塁ですらやめる方向に傾き、出した結論は3年生全員の引退だった。
「今のままじゃチームはまとまらない。試合に出ても、この状況だとプレーはできないと前田先生に伝えました」(井村)
春のセンバツ切符を手にしていたチームの3年生が、夏を前に全員引退する。一般的な高校野球のイメージからすると考えられないことだが、彼らにしてみれば決して不思議なことではない。なぜなら、全員が高校で野球を終えるからだ。
「甲子園がなくなって、何のために野球をやっていたんだろうと思いました」
そう語ったのは、背番号6ながら昨年秋の北海道大会準々決勝で北海道栄を3安打完封した千葉俊輔だ。
秋はセンターとして出場した菅結汰は「家で(夏の甲子園中止の)ニュースを見た瞬間、一気にやる気がなくってしまって......失望っていうか、もう終わりかなって思いました」と、自粛期間中に続けていた自主練習もしなくなり、毎日書いていた野球ノートも書くのをやめた。その日以来、食事の量も一気に減った。
アンケートの"将来の夢"の欄に「プロ野球選手」と書く球児が多いなか、帯広農には野球関係の夢を書く部員はひとりもいない。夏の大会がなくなるのなら、野球をやる意味がない。練習の成果を披露する場がなくなった以上、彼らの目が進路に向くのは当然のことである。
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