2020.05.26

志村けんさんが亡くなって甲子園
中止を覚悟した球児の本心と底力

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 最初は、どういう真意でその言葉を言ったのかわからなかった。

「あの時、電話で何人かと話したんです。志村けんさんみたいにすごい人なら、最高の治療が行なわれているはずですよね。それでも助からなかったということは、それぐらいコロナって強敵なんだなって......。あの時、(大会中止を)覚悟したんです」

 感染者数でも、死亡者数でもなく、志村けんさんが亡くなったという事実が、ひとりの高校球児を観念させてしまったのだ。

 そう冷静に語っているが、夏の甲子園がなくなって、悔しいとか、恨めしいとか、そうした感情はないのだろうか。

「相手がウイルスじゃ、しょうがないっすよね。もう2カ月休んでいるので、自分たちなりにいろいろなことを考える時間がありました。たしかに、最初は先が見えなくて、不安で、家族に八つ当たりしたこともありました。それはみんな(チームメイト)も同じだったみたいで......。でも野球部にいると、結構、理不尽なこともたくさんあるので(笑)」

 本心は悔しいに違いない。それでもこうして気丈に振る舞わなければならないことに、やり切れなさを感じてしまう。

「まさか、こんな形で最後の夏がなくなってしまうなんて、誰も思っていなかったわけじゃないですか。しかも、自分たちの努力とかではどうすることもできない。こんな"理不尽"なことないですよね。ほかのヤツらも『そうだよな』って、なんか笑っちゃいましたね。自分ら結構打たれ強いほうなので大丈夫っすよ。エラーした時も『切り替えろ!』って、ずっと言われてきたので(笑)。だから、今回の件にしても切り替えればいいだけのこと」