志村けんさんが亡くなって甲子園中止を覚悟した球児の本心と底力 (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 最初は、どういう真意でその言葉を言ったのかわからなかった。

「あの時、電話で何人かと話したんです。志村けんさんみたいにすごい人なら、最高の治療が行なわれているはずですよね。それでも助からなかったということは、それぐらいコロナって強敵なんだなって......。あの時、(大会中止を)覚悟したんです」

 感染者数でも、死亡者数でもなく、志村けんさんが亡くなったという事実が、ひとりの高校球児を観念させてしまったのだ。

 そう冷静に語っているが、夏の甲子園がなくなって、悔しいとか、恨めしいとか、そうした感情はないのだろうか。

「相手がウイルスじゃ、しょうがないっすよね。もう2カ月休んでいるので、自分たちなりにいろいろなことを考える時間がありました。たしかに、最初は先が見えなくて、不安で、家族に八つ当たりしたこともありました。それはみんな(チームメイト)も同じだったみたいで......。でも野球部にいると、結構、理不尽なこともたくさんあるので(笑)」

 本心は悔しいに違いない。それでもこうして気丈に振る舞わなければならないことに、やり切れなさを感じてしまう。

「まさか、こんな形で最後の夏がなくなってしまうなんて、誰も思っていなかったわけじゃないですか。しかも、自分たちの努力とかではどうすることもできない。こんな"理不尽"なことないですよね。ほかのヤツらも『そうだよな』って、なんか笑っちゃいましたね。自分ら結構打たれ強いほうなので大丈夫っすよ。エラーした時も『切り替えろ!』って、ずっと言われてきたので(笑)。だから、今回の件にしても切り替えればいいだけのこと」

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