志村けんさんが亡くなって甲子園中止を覚悟した球児の本心と底力 (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 その一方で、今回の夏の甲子園中止に安堵した自分もいた。今年に限っては、絶対に無理をしてはいけないと......。

 戦っている相手は、目に見えない未知のウイルスである。いまだ治療薬がないなかでの大会開催は、やはり"危険"と言わざるをえない。仮に、開催が決定したとしても、選手たちは急ピッチの調整が必要になる。そんな状態で大会に入ったら、いくら屈強な選手たちとはいえ健康面の不安は拭えない。ある強豪校の監督はこんなことを言っていた。

「ただでさえ生命の危険を感じる暑さなのに、十分なコンディションづくりもできないまま大会を戦うのは......指導者の本音としては、子どもたちをそんな危険にさらしたくありません。親御さんから預かっている大事な息子さんですから」

 選手たち、とくに3年生にとっては本当にかわいそうな話であるが、非常時ほど"情"にフタをして、"理"を働かせて切り抜けなければならないのではないだろうか。

 5月に入って少し経った頃、ある高校の3年生部員と電話で話す機会があった。

「もちろん、夏は絶対にやりたいです。そう信じていますけど、やれなくなった場合の覚悟もできていますから」

 何度も甲子園に出場している強豪校でひと桁の背番号を付けているAくんの言葉が胸に刺さった。

「だって、志村けんさんが亡くなったんですよ!」

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