日体大で本気で二刀流に挑む逸材。指名漏れも2年後を見据え肉体改造中

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 試合が始まる前から、無観客試合ということが惜しまれるシーンが見られた。

 ジャイアンツ球場の一塁側ファウルエリアで大遠投を繰り返す2人組がいた。キャッチャーミットをはめてホームベース付近にいたのは現役選手ではなく、日本体育大の辻孟彦コーチだった。かつて中日で投手としてプレーし、近年は松本航(西武)ら好投手を続々とNPBに送り出している敏腕コーチである。

 辻コーチの相手はライトフェンスを背にして立つ、小柄な左腕だった。2014年に現役を退いた辻コーチが投じたワンバウンドのボールをキャッチすると、軸足一本でケンケンをする。その反動を生かして左腕をしなやかに振ると、ボールはぐんぐん加速して辻コーチのミットに大きな音を響かせた。ボールの勢い、回転、球筋、どれをとっても惚れ惚れするボールだった。

藤嶺藤沢高時代からプロ注目の投手だった矢澤宏太藤嶺藤沢高時代からプロ注目の投手だった矢澤宏太 この左腕は巨人三軍とのオープン戦で先発する矢澤宏太である。藤嶺藤沢高(神奈川)から日本体育大に進んだ新2年生。昨冬の大学日本代表候補合宿には1年生ながら招集され、再来年のドラフト候補と言っても差し支えないだろう。

 遠投の後、徐々に距離を縮めて約20メートルの距離から立ち投げに移る。このときのボールは凄まじかった。辻コーチはミットを弾き飛ばされそうになりながら、やっとの思いで捕球していた。強烈なスピンのかかった快速球。試合が始まる前から、とんでもないものを見せてもらった。

 試合後、矢澤に試合前の遠投とキャッチボールについて聞くと、まずは辻コーチのリアクションについて突っ込みが入った。

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