超高校級エースやスラッガーは皆無。それでも勝つ関東一高の不思議 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 注目すべきは、ビッグプレーを演じた村岡がそれまで運に見放されたかのように失敗続きだったことにある。

 1回裏の打席では送りバントに失敗し、2回裏の打席では二死満塁のチャンスでキャッチャーファウルフライ。3回裏には逆転に成功した直後の二死一、二塁の場面でピッチャーゴロ。7回表には自慢の守備でエラーを犯し、日本文理に追撃のきっかけを許してしまっていた。

 村岡は「さすがに守備でも悪送球をしたので、自信を見失いかけました」と明かす。それでも、米澤監督から「今日のお前は守備の日だから」と声をかけられ、気持ちを切り替えることができた。「みんなの足を引っ張った分、取り返したい」という思いが、土壇場での好判断につながった。

 関東一はどの選手に話を聞いても、自分のプレーに対して明快に答えてくれる。そんな印象を村岡に伝えると、誇らしげな表情でこう答えた。

「カンイチ(関東一)に入った時から、米澤監督や指導者の方々から野球を叩き込まれてきていますから。ベンチにいる選手も野球を考える能力が高くて、相手のクセに気づけるヤツが多いです。ベンチにいる18人とアルプスにいる全員の力で、相手と戦っているつもりです」

 関東一の次戦は8月14日、熊本工(熊本)との対戦になる。気づいたらリードを奪っている関東一の不思議な野球の背景に、野球について考え抜いた男たちの結晶があることを想像してみてほしい。

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