高校野球の新戦術に「継捕」の波。「正捕手なし」にはメリットがある (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Jiji Photo

 今夏6試合のうち、山﨑が4試合(先発3試合)に出場して打率.500、菅は3試合(先発2試合)に出場して打率.600。武田も3試合(先発1試合)出場で守備を引き締めた。それぞれに力を発揮したとはいえ、自分がレギュラーとして出場したい思いもあっただろう。

 そこで併用される3人にも話を聞いてみたが、ギラついたライバル関係というよりも、ともに戦う「パートナー」という感覚のようだ。

「3人とも仲がいいですし、お互いに技術的に気づいたことを教え合っています。自分が出ていなくても『自分の代わりに出てくれている』と思いを託していますし、誰が活躍してもうれしいです。『正捕手』ということは意識していませんね」(山﨑)

「大会直前まではレギュラー争いをしていましたが、大会になれば誰が出てもチームが勝つことが一番なので。後輩の菅が代打で同点タイムリーヒットを打った試合(花巻北戦)も、仲間として素直にうれしかったです。山﨑はキャッチングや送球の精度、菅からはバッティングを勉強しています」(武田)

「武田さんも山﨑さんもやさしくて、いろいろと教えてくれます。2人とも僕より頭がいいので、先輩が試合に出ているときは安心して見ていられます。リードや守備の技術は自分にはないものなので。僕はバッティングや足を買われて使ってもらっているので、そこで活躍しないといけないと思っています」(菅)

 8月9日の甲子園初戦・鳴門(徳島)戦では、果たして誰がスタメンマスクをかぶるのだろうか。

 昨年から複数捕手制で戦っていたのは仙台育英(宮城)である。昨夏の甲子園は1試合のなかで3人もの捕手を使い分け、「継投」ならぬ「継捕」と呼ばれた。

 就任2年目の須江航(すえ・わたる)監督は36歳の若い指揮官ながら、仙台育英の系列校・仙台育英秀光中を日本一に導くなど、中学球界でその名は広く知られている。練習試合で捕手にインカムを装着させ、ベンチとグラウンドの双方向でコミュニケーションを取りながらリードを学ぶという先進的な手法を試みることもある。須江監督の柔軟な思考については、『高校野球継投論』(著者・大利実)に詳しい。

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