あの夏から12年。不器用なエースは監督となり「がばい旋風」を起こす (2ページ目)

  • 加来慶祐●文 text by Kaku Keisuke
  • photo by Kaku Keisuke

 監督1年目の昨年夏は、3対5で有田工に初戦敗退。秋に公式戦初勝利を挙げたものの、3回戦で鹿島に1対3で逆転負けを喫する。

 じつはこの直後ぐらいから、部員の間で起用法や采配について不満が噴出し、野球日誌に「あの場面はスクイズだった」と書く選手も現れた。一部からは「百崎先生に戻ってきてほしい」という声も上がった。そうした動きは、おそらく久保の耳にも届いていたに違いない。

 優勝を決めたあと、プレッッシャーについて尋ねられた久保は、人目もはばからず号泣した。そして絞り出すように、こう漏らした。

「子どもたちの『勝ちたい』という思いに応えられなかった時期は、本当につらかったです」

 オフの間、指導力を磨くために単身で四国を訪れ、名門校の練習を見学し、多くの指導者からアドバイスをもらった。部員の不満に対しても、不器用だからこそ、一つひとつ丁寧に向き合った。

 今年春の大会は、昨秋準優勝の北陵に2対5で初戦敗退。しかし、これまで久保の尽力に見て見ぬふりをしていた選手たちが「やっぱり全国の頂点を知っている久保先生についていくしかない」という声を上げたことで、チームの一体感は目に見えて高まっていった。百崎が当時を振り返る。

「難しい時期はたしかにありました。ベンチワークを手伝うために試合中もそばにいることが多かったのですが、5月ぐらいからは『もう大丈夫だ』と確信したので、それからはあえてベンチと距離を置いています」

 今夏の初戦は鹿島だった。鹿島は夏の前哨戦であるNHK杯で優勝したシード校であり、昨年秋の大会で逆転負けを喫した因縁の相手である。

 試合は3回までに3点を奪われたが、エースの川崎大輝が踏ん張り、4回以降は無失点。佐賀北の伝統である粘りの野球を見せ、8回に逆転して勝利をもぎとった。

「あの勝ちが大きかった。あれを経験したことでチームが動じなくなったし、その後も成長にもつながったと思う」(久保)

 かつては投手起用をめぐって久保に噛みついたこともある川崎だが、大会中は「ピンチで必ず抑えるのがエースだ」という久保の言葉を励みに、何度もチームの危機を救った。

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