菊池雄星を超える逸材がまさか。
横浜・及川雅貴に異変が起きていた (3ページ目)
明豊戦の試合前、及川にこんな質問をぶつけてみた。
―― 及川投手の学年にはすばらしい投手が何人もいますが、自分が誰にも負けないと思っているところはどこですか?
すると及川はわずかに首を傾げ、「勝っているところは、とくにないですね」と答えた。自身がこだわっているストレートの質についても、「一番ではないと思うので、すべてにおいてレベルアップしないといけないと思います」と威勢のいい言葉は聞けなかった。
今となっては、自分のことが客観的によく見えているともとれる。だが、及川が持っているポテンシャルからすると、物足りなく感じたのもたしかだ。
期待を大きく裏切る形になった春のセンバツを終え、これから夏の甲子園に向けた準備が始まる。横浜の平田徹監督は「課題は及川です」と断言しつつ、こうも述べている。
「潜在能力の高い選手ほど成長スピードが遅い子もいます。あまり我々が焦らせるのではなく、じっくりとやらないといけないところもあると考えています」
もしかしたら高校3年間という短い時間では、及川の課題は解消し切れないのかもしれない。とかく結果を求められ、忘れられがちだが、高校野球は育成年代なのだ。それもまた仕方がないことだろう。及川の野球人生のゴールは、もっと先にある。
それでも、佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)、西純矢(創志学園)ら逸材投手が次から次へと出現する特別な年代だからこそ、つい期待してしまう。及川が見違えた姿を夏までに見せてくれることを。
いつか「こんな時期もあった」と笑って振り返れる日はくるのか。及川雅貴はまだ、その器の底を見せていない。
菊地高弘著(発行/カンゼン)
【発行】カンゼン
【定価】本体1500円+税
2018年夏の甲子園で注目を集めたのは、初出場の三重県立白山高校だった。
白山高校は、いわゆる野球エリート校とは対照的なチーム。
10年連続県大会初戦敗退の弱小校。
「リアル・ルーキーズ」のキャッチフレーズ……。
そんな白山高校がなぜ甲子園に出場できたのか。
そこにはいくつものミラクルと信じられない物語が存在した。
「菊地選手」渾身の一作。
学校も野球も地元も熱狂! ひと夏の青春ノンフィクション
【目次】
第1章 雑草だらけのグラウンド
第2章 牛歩のごとく進まぬチーム
第3章 10年連続三重大会初戦敗退
第4章 真面目軍団と問題児軍団
第5章 一筋の光明と強豪の壁
第6章 8名の野球部顧問
第7章 過疎の町と野球部
第8章 三度目の正直
第9章 監督の手を離れるとき
第10章 日本一の下剋上
第11章 空に昇っていく大歓声
第12章 白山はなぜ甲子園に出られたのか
【著者紹介】
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、ライターとして独立。『中学野球太郎』誌上では打者として有望中学生投手と真剣勝負する「菊地選手のホームランプロジェクト」を連載中。著書に『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)、『野球部あるある』シリーズ(「菊池選手」名義/集英社)がある。Twitterアカウント:@kikuchiplayer
3 / 3