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済美×星稜、タイブレーク決着の舞台裏。
両校の明暗を分けた一瞬の間 (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 守備から生まれた勢いが切れてしまった星稜は、タイブレークに入った13回表に2点を挙げたが、得点は三塁ゴロ野選とスクイズによるもの。1番・東海林航介から始まる好打順だったが、タイムリーヒットは生まれなかった。無死一、二塁から東海林は打って一塁ゴロ。進塁打となり一死二、三塁と送りバントと同じかたちになったが、済美の中矢太監督は次のように語る。

「バントしてくると思ったんですけど、いきなり打ってきてちょっと楽になりました。バント守備は心配なところもあったので。『2点なら』と思いましたね」

 中矢監督が「2点なら」と思えたのには理由がある。タイブレークは無死一、二塁から始まる。2人の走者が保証されているからだ。しかも、13回裏の済美の攻撃はラッキーボーイの9番・政吉完哉(まさよし・かんや)からだった。

 この日の政吉は本塁打を含む3安打に加え、2四死球で全5打席出塁している。だが、中矢監督に迷いはなかった。

「政吉はセーフティーバントが上手なので、セーフティーしかないなと思いました。あわよくば自分も生きるバント。最悪でも二、三塁、できたら満塁にしたいなと」

 指揮官の期待に応え、政吉はカウント2ボールからの3球目、三塁前に絶妙のセーフティーバントを決める。最高のバントだったが、ポイントはその前の2球にあった。

 無死一、二塁で相手がバントをしてくると予想した場合、守備側は一塁手をダッシュさせ、一塁側にバントさせようとする。三塁側に転がされると成功になる確率が高いため、右打者(政吉は右打者)に対して投手は三塁側にバントしにくい外角球を投じることが多い。マウンドの寺沢孝多も狙いは当然そうだった。

「外にチェンジアップを投げて弱いバントをさせようと思ったんですけど、ストライクが取れなくて......。あの場面でフォアボールが一番ダメなので、バントをやらせようと思って、真っすぐを真ん中めがけて投げました」

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