あの「人的補償」の元チームメイトに続け。月給10万円から挑むプロ (5ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 市川光治(光スタジオ)●写真 photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

 武田監督は「技術のミスは責めないけど、考え方のミスは指摘する」という。神谷は技術のミスを恐れるがあまり、思い切ったプレーができないことがあるのだという。

「ミスしたら凹むんですよ。どうしようって......シーズンは長いんだから切り替えなきゃと思うんですけど、なかなか思い切れない。だから、武田監督からはたとえば盗塁するとき、ピッチャーが投げてからスタートするんじゃなくて、動いた瞬間に行くくらいの遊び心を持てと言われます。投げた、行くじゃ、真面目すぎるって。もっと勝負しろって」

 月10万円ほどの給料で、自炊の毎日。毎晩、実家から送られてくる冷凍の豚タンを焼いて、レモンを絞り、それをおかずに炊き立てのごはんを食べる。コンビニで買った100円のサラダと、味噌汁も欠かさない。朝は、残ったご飯をおにぎりにして食べてから家を出る。昼は、チームに届けられる弁当を一個200円で購入する毎日――そんな神谷に、あえてこんな質問をしてみた。今の職業は何ですか、と......すると、神谷はこう即答した。

「プロ野球選手です」

 そして、こう続けた。

「NPBのステージは、まったく別の世界です。同じように野球でお金を稼ぐ職業なんですけど、知名度も違えば、お客さんの数も、給料も違う。もちろん、レベルも違います。でも、僕もプロ野球選手です。野球でお金をもらっていますし、お金をもらっているからには、その道のプロだと思っています」

 プロ野球選手が、プロ野球選手を目指す。それが独立リーグの世界だ。そして、神谷塁は野球をあきらめるためにここへ来たのではない。次のステージに上がるために、ここで野球をやっている。父から"塁"という名前を託された、誰よりも野球がうまいはずの自分を信じて――。

◆なんとPL学園野球部にまだ逸材がいた。凄腕のキャッチャーは何者か>>

◆山本昌は巨人ドラフト1位・鍬原拓也をどのように評価していたか?>>

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