歌って踊れるプロ野球選手に。
ミュージカル俳優が独立リーグで初舞台

  • 井上幸太●文・写真 photo by Inoue Kota

 昨年6人の選手がドラフト会議で本指名を受け、日本球界で市民権を得た印象も強い独立リーグ。所属する選手の多くは、いわゆる"エリート街道"とは異なる野球人生を歩んでいる。強豪大学に進みながらも中退した者、一度は一般企業に勤めたものの、湧き上がる野球への衝動に突き動かされた者。こうして集まった選手たちが個々に持つ多様なバックボーンもまた、独立リーグの魅力のひとつと言ってもいいだろう。

 今年も異色の経歴を持った選手が独立リーグに挑戦する。四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックスのルーキー、和田一詩(かずし・23歳)だ。

高校野球経験もなしという経歴も異彩を放つ和田一詩高校野球経験もなしという経歴も異彩を放つ和田一詩

 高校野球未経験の野球歴もさることながら、"現役の俳優"という肩書きがひと際異彩を放つ。高校卒業と同時に、劇団四季に入団し、2015年5月からはフリーの俳優として活躍。ミュージカルと野球。一見、接点がほとんどないように思えるが、なぜ和田は独立リーグに身を投じたのか。

 2月末に独立リーグ挑戦前最後の舞台出演を終え、「こっちのほうがしっくりきます」と坊主頭に刈り上げた青年が、ハリのある声で自身の歩みを説明してくれた。

「小学校1年の時に野球を始めて、プロ野球選手を夢見ながら練習していました」

 野球に打ち込む日々が続いたある日、グラウンドへの行き帰りに乗車していたチームメイトの父兄の車内で運命的な出会いをすることとなる。

「友人の親御さんの車で『ライオンキング』のCDが流れていたんです。物語が歌とともに進んでいく。『こんな面白い世界があるのか!』と虜(とりこ)になりました」

車内で繰り広げられる自分の知らなかった世界。のちに自身が所属することとなる劇団四季が織りなす世界観に一発で魅了された。これがきっかけとなり、プロ野球選手を目指す和田少年に"ミュージカル俳優"というもうひとつの夢が加わった。

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