野球以外の話はしない。センバツ初出場の公立校に現れた2人のエース (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yutaphoto by Kyodo News
  • photo by Kyodo News

 野球部に入ってすぐ、同級生が49人もいることに仰天したという富山は、田舎育ちのせいか、どこかのんびりした気質を窺(うかが)わせる。元横浜ベイスターズで、プロ経験のある染田部長がこう言っていた。

「富山は褒め過ぎると失敗するところがあるんですよ(苦笑)。そんなに褒めんでいいタイプというか、いったん落ちると危なっかしい。ハマったら凄くて、川畑を超えるんですけどね。で、川畑はメチャクチャ安定してて、褒められようが叱られようが、前の日に放っていようが雨の中で投げようが、まったく関係ない。だからウチは富山で行けるところまで行って、ピンチでも平気な川畑を後ろに持ってくるほうがいいんです。逆だと川畑がアカンかったとき、富山は投げさせてみないとわからないところがあるんでね」

 ピッチングもメンタルも常に安定しているという川畑は、京都の下京区で育った。中学は京都駅にほど近い七条中。富山とは対照的に、川畑は街のど真ん中で育っている。そんな川畑が京都市内の甲子園常連校ではなく長岡京市にある乙訓を選んだのは、富山と同じく、中学3年のときに夏の京都でベスト4まで勝ち進む快進撃を目の当たりにしたからだった。ただ入学後、川畑にカベが立ちふさがる。

「入学してすぐの頃は、僕が連れて行ってもらえない遠征に富山は連れてってもらったりしていたので、アイツは1年の中ではできる選手なんやなって思うしかありませんでした。でも、先生にはどう見えてるかはわからなかったけど、僕の中では富山には負けてないなって......富山は左なんで、スライダーで左バッターも右バッターも振らせることができるのはちょっといいなと思いますけど、キレのある、手元でグッとくるボールでは負けてない。

 富山は自分の中では一番のライバルで、ピッチャーとして一番、意識している選手ですから、向こうが練習試合とかでいい結果を出すと悔しかったし、僕も『このままじゃ、ヤバいな』『もっと頑張らないといけないな』って感じさせてもらってきました。アイツからはいろんな形で刺激をもらっています」

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