スカウトが言う「甲子園のホームラン量産は危険なシグナル」の真意 (4ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 それだけではない。本塁打が出すぎることは、野球の質を変えることにもなりかねない。

 今大会は1イニング4点以上のビッグイニングが26度もあった(4点13度、5点9度、6点4度、7点1度)。48試合で26度だから、1.8試合に1度ある計算だ。

 明豊が天理戦で10点リードされた9回裏に6点返し、9対13にまで迫るなど、金属バット時代の社会人野球のように、セーフティリードはあってないような状態。地方大会ではコールドになる7回7点差でも逆転の可能性は大いにあり、見ている側にとっては面白くなったといえる。

 だが一方で、プレーする側にとっては1点の価値が減ってしまったともいえる。スクイズで1点取っても、本塁打で簡単に"倍返し"されてしまうからやらなくなる。バントや盗塁、進塁打、ゴロ・ゴーなどの小技を駆使して、必死になって点を取るのがバカらしくなる。

 守っていても、「1点ぐらい取られても、すぐに取り返すからいい」という気持ちになる。今大会は送りバント失敗や暴投・捕逸のバッテリーミスが多かったが、これは本塁打による大量点の魔力が因のひとつなのは間違いない。

 1点の重みがなくなっているから、プレーにおける約束事も軽視されていく。守備でいえば、内野手が無理な勢で捕球した場合は、ワンバウンドになっても一塁へ低い送球をする。投球や打球をはじいてしまったらすぐ捕りに行く、ベースがいていたらベースカバーに走る、誰かが送球すれば、その後ろへバックアップに走る......。そういう意識が希薄になっている影響からか、今大会は外野から内野への返球が乱れてフィールドの上を転々とする場面が多かった。

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