初回6失点のベンチで...。大阪桐蔭を蘇らせた西谷監督の「言葉学」 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 さらに試合が膠着すると、綱引きにもたとえた。

「今は引っ張られへんからしゃがめ。耐えて、耐えて......そうすれば相手もバテてくる。バテてきたら一気に引っ張るからな。それまではベンチのみんなもしゃがんどいてくれ」

 チャンスを待つ間、西谷監督は選手たちにこうも伝えている。

「流れが来るように、ボール回しでも走塁でも、普段やっていることをきっちりやってくれ。下を向かずにやることやっていたら、必ず自分たちのペースになってくるから」

 もちろん、普段の信頼があってこそだが、特有の言い回しがいつもの空気を生み、選手の焦りや力みを見事に取り除く。5年前に甲子園で春夏連覇を達成したときの選手が"西谷語録"を競って語っていたことがあった。

「まわしを取ったら絶対に離すな。それで最後にうっちゃるんや」
「前半はしっかり組んでいこう。スクラムと一緒や。組んだら相手の力がわかる」

 藤浪晋太郎(阪神)は、こんなたとえ話を言われたという。

「ケンカで殴られるのは当然。2、3発殴られてからが勝負や。そこでどうするのか。絶対に倒れたらアカン」

 楽しげに"西谷語録"を語っていたある選手は、こうまとめた。

「同じ話でも言い方が面白いから耳にも残るし、忘れたとしてもまた言ってくれるから、次第に忘れなくなる。そのうち僕ら選手たちが、西谷先生と同じようなことを言うようになっているんです」

 話をセンバツの静岡戦に戻す。

 中盤になり、ある選手が「(相手投手の球威が)落ちてきました」と言った。これには「打ってから言わんかい!」と返したそうだが、8回、ついにそのときが来た。

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