エース温存で18失点の日大三が手にした「夏に打倒・早実」の攻略法

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 日大三の名物応援曲『Come on』が、イニングの途中で吹奏楽部の演奏から野球部員による"口ラッパ"に切り替わった。時計の針が22時を回り、神宮球場で楽器の演奏ができなくなったためだ。

東京都春季大会決勝で2本の本塁打を放った早実・清宮幸太郎東京都春季大会決勝で2本の本塁打を放った早実・清宮幸太郎 延長12回裏一死満塁、早稲田実の野田優人がセカンド横を抜ける強烈な打球を放った瞬間、電光掲示板には「17対18」という恐るべきスコアが表示された。7~9回のわずか3イニングで両軍合わせて24点が刻まれた大乱戦。間違いなく「伝説」として語り継がれる一戦になるだろうが、一方で点が入り過ぎた感も否めない。ルーズヴェルトが「10点ずつ多い!」と怒り狂いそうな展開に、焦(じ)れた観戦者もいたはずだ。

 この決勝戦、日大三はエース・櫻井周斗を温存した。この試合に勝利しても、甲子園には直結しない。夏の西東京大会の決勝戦で対戦する可能性のある早実に、わざわざ手の内を見せることはない。もし打撃戦になったとしても、自慢の強力打線で打ち勝てばいい。それが日大三のゲームプランだった。

 試合後、日大三の正捕手・津原瑠斗(つはら・りゅうと)は疲れ切った表情でロッカールームに現れた。

「こんなゲームは初めてです。しんどかったです......」

 津原の右手の爪は、蛍光イエローに染まっていた。慣れないナイトゲームでも投手にサインが見えるようマニキュアを塗るという配慮だったが、苦心のリードのかいなく早実打線にことごとく弾き返された。のべ18人の生還を見送った捕手にのしかかる心身の疲労は、相当なものだったはずだ。

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