長島三奈「取材した球児が指導者で
甲子園に。そんな再会がうれしい」 (3ページ目)
――感激の再会ですね。
「彼に聞いたんです。『野球をやめたくなるとき、なかった?』って。トスバッティングが1球も当たらないなんて、楽しくないんじゃないか、苦しいだけじゃないか、って。でも、彼は『一度もないです』と、答えたんです。
あとで監督に聞いたら、彼は中学生時代、不登校だったそうです。それが野球部に入部したら、学校を一日も休まなかったし、練習も一日も休まなかったと。以前は引きこもり状態だったので友だちがいなかったのが、野球に出会って友だちができて、また周りも野球が上手でなくても、彼をしっかりフォローして、盛り立てたそうです。
監督はまずイチからルールを教えたそうです。打者は打ったら一塁に走る、ゴロを取ったら一塁に投げるんだよと。そして、ノックのときはまず彼にグラブを構えさせて、そこに入るようボールを打つ。監督のほうが『僕の練習ですよ(笑)』って。
でも、そういう積み重ねがあって、彼も野球の楽しさが少しずつわかるようになって、仲間が増えて......そこに部活動の原点を見たような気がしたんです。彼は最後の夏の大会、初ヒットという目標は叶わなかったのですが、伝令としてグラウンドに立ったんです。高校野球の取材に行ったのですが、何かひとりの人間ドキュメントを見るようで。
もちろん、甲子園を目指す、プロを目指す高校球児もいるのですが、こういう球児、こういう"高校野球"もあるんだな、と温かい気持ちになり、ひとりウルウルしていました。そして、成長した彼を見て、野球の魅力って、やっぱりすごいなと」
――何年高校野球を見ていても、そういう新しい感動があるんですね。
「18年間、高校野球を取材してきましたが。本当にそうなんです。10校行けば、10校のドラマがあるし、10人に会えば、10人のストーリーがあるんです。多分、100年取材しても新しい発見があるんじゃないですかね(笑)。高校野球に関しては、もう仕事モードではなくて、『人と人』として、球児に会うのが本当に楽しみで、今も取材前日はワクワクで、小学生の遠足の状態です」
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