【新車のツボ73】
VWゴルフGTI試乗レポート (2ページ目)
いや、運転そのものは夢のように簡単になった。アクセルペダルを踏み込むだけで、間髪おかずに、蹴り上げるようなすさまじい加速Gが襲う。今のゴルフGTIは最新電子制御ターボエンジンに、デュアルクラッチという今いちばんハイテクな変速機をもつ。昔のように、マニュアル変速を駆使してエンジン回転のスイートスポットを維持したり、ターボが効きはじめるタイムラグを予見してアクセルを早めに操作したり......といったコツやワザはほぼ不要。ひと昔前の4.0リッターエンジンなみの馬鹿力で、しかも前輪駆動なのに、フル加速でステアリングがとられてオットット......みたいなこともまるでない。
これにはシャシーやボディの基本フィジカル能力の飛躍的向上に加えて、アクセル開度や四輪のブレーキを個別に自動制御するハイテクによるところも大きい。また、オプションの可変ダンパー(21万円)を追加すると、普段はひと昔前のクラウンなみにフワフワ快適なのに、気合を入れてスポーツモードにすれば、鼻歌まじりの気軽な精神状態のまま、アッという間に昭和時代のスーパーカーなみの速度域に突入できてしまう。
逆にいうと、だからヤバい。どんなに速くなっても、四本のゴムタイヤだけで走るのは、自動車が発明されたときから変わっていない。また、オーバースピードでカーブに突っ込んでタイヤの限界を超えてしまえば、どんなハイテクもまったく役に立たない。で、そういう今のGTIでその現実に気づいたときには、すでにひと昔前のスーパーカーなみの速度に達しているわけで、ことの重大さも40年前とは比較にならない。だから、今のGTIでは「自分はとんでもないスピードで走っているのだ」という事実を厳として忘れず、チョーシに乗らないことが、かつて以上に重要になっている。その"一線"だけはキモに銘じてほしい。
しかしである。昔のGTIやそれに類するホットハッチを知るオタクオヤジとしては、今のGTIのスゴさには、素直にスタンディングオベーションを贈りたくなるのも事実。こうして220psの前輪駆動車がシレッと成立していること自体、昭和時代には想像もできなかった。しかも、こんなに乗り心地よく、運転がイージーって......。
冒頭のように「普通の人が買えるクルマが、こんなに簡単に速くなっていいのか?」なんて斜にかまえたくなるのも、私の本音である。そのいっぽうで、ある意味でただのファミリーカーがスーパーカー級に走ってしまう......のは「世界のクルマ小僧が40年前から夢見ていた究極のツボ」といってもいい。やっぱり技術の進歩ってスゴイなあ。
【スペック】
VWゴルフGTI
全長×全幅×全高:4275×1800×1450mm
ホイールベース:2635mm
車両重量:1390kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ・1984cc
最高出力:220ps/4500-6200rpm
最大トルク:350Nm/1500-4400rpm
変速機:6AT
JC08モード燃費:15.9km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:369万円
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