【新車のツボ58】スズキ・スプラッシュ 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 走りもそうだ。街中で乗るスプラッシュの乗り心地はそれなりにゴツゴツする。シートもサイズはたっぷりしているのだが、ひと昔前のドイツ車を思わせる硬質クッションである。ただし、そんなスプラッシュはきちんとした姿勢でドラポジ(ドライビング・ポジション)を決めて、スピードを出すほど乗り心地がよく、とても全長3.8m以下の小型車とは思えない安定感を見せる。

 スプラッシュが日本発売された2008年当時、スズキはこのスプラッシュを若い女性の気軽なアシグルマとして売ろうとした。というのは、主力のスイフトが当時から国産コンパクトカーでは異例に男性ユーザー比率が高かったから、その補完という意味もあった。しかし、そのスプラッシュ戦略は失敗した。残念なことに、スプラッシュの現在の販売台数は月間数百台レベルでしかない。

 さもありなん。スプラッシュはイケメンだが、よくも悪くも表情は濃いめで胸毛が似合う(?)タイプ。それに小柄な女性が乗るにはドラポジは調整幅がムダに大きいし、体重が軽い女性にはシートも硬すぎる。海を渡ってくる輸入車ということもあって、グレードは1種類だけで、しかも女性が喜びそうなアメニティ装備はほとんどないのに、標準装着タイヤがやけに贅沢で高性能だったりする。なんというか「女性向け」を謳うには、デザインや優先される装備内容のピントがちょっとズレているのだ。

 スプラッシュはハッキリいって、クルマに興味のない人や街中でズリズリ走るだけの人には向かない。そうではなく「ドシッと安定してスポーティなカタチ」とか「手応えがあって安定したハンドリング」こそクルマのツボと信じて疑わないマニア、あるいは「クルマの本場である欧州で鍛えられた」というフレーズにエクスタシーを禁じ得ないオタクほど、スプラッシュは光り輝いて見えるだろう。

 「小さくてカッコよくて、走りもよくて、そこそこ安くて、しかもちょっとレアな存在感のあるクルマ」をお探しの運転好き&クルマ好きの皆さまは、なにとぞスプラッシュをお忘れなきよう。これに一度でも乗れば、目からウロコが落ちて、あなたのツボがビクビクッと反応することはワタシが保証する。

【スペック】
スズキ・スプラッシュ
全長×全幅×全高:3775×1680×1590mm
ホイールベース:2360mm
車両重量:1050kg
エンジン:直列4気筒DOHC・1242cc
最高出力:91ps/6000rpm
最大トルク:118Nm/4800rpm
変速機:CVT
JC08モード燃費:19.6km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:128万7300円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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