【新車のツボ58】
スズキ・スプラッシュ 試乗レポート
これは正真正銘の「和製欧州車」というか、正確にいうと「欧製日本車」である。知っている人もいるだろうが、スプラッシュは設計開発も生産もスズキだが、生産工場は欧州のハンガリー。つまり輸入車だ。
日本企業のスズキが日本国内で売るクルマがなぜハンガリー製......というと、このクルマは欧州でオペル(=欧州GM)のアギーラとしても販売されているからだ。経済用語でいうOEM(相手先ブランド供給)というヤツで、しかも欧州ではオペル版のほうがスズキ版より販売台数が多かったりもする。ハッキリいうと、世界全体ではスズキ版のスプラッシュは二の次、なかでも日本市場なんて三の次、あるいは四の次(?)といってもいいくらい。
公式には「スズキとGMの共同開発」となっているスプラッシュだが、聞くところではGM=オペル側は「ああしてほしい、こうしてほしい」と要望を出しただけで、実質は完全なスズキ製。この新車のツボの第2回で取り上げたスイフトをはじめとする「軽自動車じゃないスズキ」は、どれも手応えのある欧州車風味の走りが特徴で、クルマオタクが一目おく存在。そのなかでもスプラッシュは「欧州のために開発して、欧州で生産して、欧州ブランドでも売るスズキ車」だからして、スイフトに輪をかけて濃厚な欧州味である。
スプラッシュの成り立ちはスイフトの土台をさらに短縮&小型化して、ハイトワゴンボディをかぶせたもの。この種の日本のクルマはとにかく四角いカタチで室内を広くするのが常套手段だが、スプラッシュはそれとは正反対。いかにも抑揚があって筋肉質、かつ彫りの深いデザイン。基本的なプロポーションは強烈に絞った上屋に土台がドーンとワイドに安定した典型的な台形スタイルだ。
......というスプラッシュはやはり、日本向けとは狙いどころが根本的に違う。日本のこの種のハイトワゴンは、後席の広さや子育て層の使い勝手をなにより優先する傾向にあるが、スプラッシュはそのプロポーションから想像できるとおり後席は広くない......が、そのかわりに運転席は広々として健康的で、シートの調整幅もすごく広い......と、設計思想はあくまで「いちばんエライのはドライバー」なのが、いかにも欧州っぽい。
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著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/