宮司愛海×西岡孝洋のフィギュア対談。中継の醍醐味とその難しさ (5ページ目)

  • 佐野隆●写真 photo by Sano Takashi

西岡 あと演技後の最初のひと言って、アナウンサーの役割から少しだけ外れることが可能なんだよね。自分の気持ちをちょっと出せるでしょ。「よく頑張りました」と言ってもいい。

宮司 その選手のことをずっと見てきたからこそ、許される瞬間はありますもんね。

西岡 そのちょっとしたひと言に喜びを感じながら16年(笑)。

宮司 フジテレビのフィギュアスケートの中継チームの取材量って、ものすごく多いですよね。

西岡 ディレクターが取材した文字起こしを読み、雑誌のインタビュー記事をチェックする。それに自分でも練習を取材に行く。ちょっとした雑談でいいから選手から直接話しを聞く。「今年はマジで緊張する」程度の言葉でも、選手から生の声で聞くと、どんな気持ちでシーズンに臨んでいるかが見えてくる。そうした言葉の積み重ねが、今後につながっていくから。

宮司 だから、デスクで会うのが1カ月に1度くらいなんですね(笑)。

西岡 あはは。宮司も取材に出ていることが多いし(笑)。全日本選手権の出場選手は、東日本選手権と西日本選手権の結果で決まる。僕はその予選の段階のブロック大会から取材に行っているから。そこだからこそ聞ける話があるから。

宮司 私はジュニアの大会も含めて、少しずつ現場に足を運ぶようになって、知り合いが増えて、話を聞けるようになってきて楽しくなってきたところで。スポーツ取材の醍醐味が詰まっている競技だなと感じています。

西岡 思い入れを持つようになると、さらに楽しくなるし、そこに年季が加わるともう抜け出せなくなる(笑)。

宮司 フィギュアスケートの大会で特殊だなと思うのは、朝に練習してから本番までの間で氷に乗るのは、本番前の6分間練習しかないということ。すごくシビアな競技ですよね。

西岡 だからこそ、練習を見るのが楽しい。2010年のバンクーバー五輪では10日間くらい練習を見に行ったのだけど、試合前の駆け引きがあって。髙橋大輔選手を含めた選手たちが練習していると、エフゲニー・プルシェンコ選手が現れて、他の選手たちに見せつけるように4回転を4回ほど飛んだら、さっさと帰っちゃう。その間、15分くらい。残された選手たちは「すげーな」的な空気になる、そこがおもしろいんだよね。

宮司 そういう駆け引きは練習のときからあるんですね。

西岡 フィギュアスケートは大会期間中、指定以外の場所で練習できないから。駆け引きだけではなくて、10日間もあると選手の調子の波が下がったのか、もう一度上がったのかも確認できる。練習にはものすごく大事な情報が詰まっている。

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