宮司愛海×西岡孝洋のフィギュア対談。
中継の醍醐味とその難しさ (4ページ目)
西岡 インタビューは勝者に対するよりも、悔しい結果に終わった選手の方がはるかに難しいから。フィギュアスケート以外の競技の選手に聞いたことがあるんだけど、そういう時にはピンポイントで聞いてほしいそうだよ。
宮司 「あのジャンプのときは、どうでしたか」ということですか?
西岡 限定した答えになる質問をしてもらいたいということらしい。「競技を終えて今の気持ちは?」と訊ねると、漠然としすぎていて「悔しい」としか言えないそうなんだよ。たとえ失敗のことであっても、質問の範囲をもう少し限定してくれると、悔しい以外の言葉で話しやすくなる。
宮司 私のイメージだと、選手は失敗には触れられたくないのかなと思っていました。
西岡 最初の質問でいまの気持ちを聞いて、我々の側から話の流れをつくるように持っていくためには、ある程度は踏み込んだ質問をする必要はあるかもしれない。
宮司 難しいですね。
西岡 難しいよ、フィギュアスケートは。だって、彼らが戦っている相手は常に自分自身だから。
宮司 そうですね。もちろん採点競技で、点数では戦っているけど、一番は自分がいかにいい演技をするかですものね。
西岡 そこが他の競技と違うところで、極論を言えば、自分自身の最高の演技ができれば、全員が勝者でもいい。だからこそ、僕は選手の演技が終わった直後に発する最初のひと言にすごく気を遣っている。その演技に対して日本で一番最初に感想を言うのが、実況アナウンサーだから。
宮司 そのひと言にみんなの印象が引っ張られることもありますもんね。
西岡 そう。たとえばジャンプが7本あって、6本は成功したけど1本失敗したとする。選手本人はすごく悔しそうな表情をしているから「悔しい演技でした」と言うのか、それとも6本の成功に目を向けたコメントを発するのか。そういう判断も実況アナウンサーには必要になってくる。
宮司 そのときに選手の気持ちに寄り添うには、選手のことをちゃんと知っておかないと難しいですね。選手それぞれのストーリー。例えば、そのシーズンにケガをしていたのを乗り越えてきたことを知っているか、知らないかで、言葉は変わりますもんね。
西岡 そう。だからこそ、宮司もやっているけれど、我々は選手に関して目を通せるものはすべて読む。そのうえで、演技後に「点数は悔しいですね。でも2種類のジャンプは飛べましたよ」と言ってあげられるかどうか。そこが我々の勝負のポイントだから。
宮司 私がそれをやっているのは、西岡さんがそれをすれば、いい仕事につながると立証してくださっているから。伝えがいのある競技です。
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