World Diabetes Day(世界糖尿病デー) 前田有紀が迫る、全員が1型糖尿病のサイクリングチームの挑戦
1型糖尿病をテーマに語り合った、(左から)前田有紀さん、ダヴィ・ロサーノ選手、薄井勲先生 photo by Ishikawa Takao
10月18〜20日に自転車競技のロードレース国際大会「2024宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース」が開催された。この大会には毎年世界トップクラスのチームが集結し、スピーディーでドラマチックなレースが展開されているのだが、その名だたるレーシングチームのなかで、ひと際注目を集めているチームがある。それが「チーム ノボ ノルディスク」だ。
世界レベルの実力を誇ることもさることながら、全員が1型糖尿病を持つ選手たちで構成されていることが、大きな話題を呼んでいる。今大会でも彼らは病気を感じさせない走りを見せて、観客を大いに沸かせてくれた。
どうして1型糖尿病の選手であっても、世界トップレベルで戦えるのだろうか。またどのような体調管理を行ない、どんな苦労を乗り越えてきたのだろうか。さまざま湧きあがる疑問について、元テレビ朝日アナウンサーで1型糖尿病への関心の高い前田有紀さんが、チームの中心選手であり、1型糖尿病を持つダヴィ・ロサーノ選手に、発症した経緯やその後の変化、そして体調管理などを伺うとともに、獨協医科大学の薄井勲先生に専門的な見地から、1型糖尿病の現状や11月14日のWorld Diabetes Day(世界糖尿病デー)の意義などについて話していただいた。
発症を理由に契約破棄、そして新チームで活躍
前田 ダヴィ選手にお伺いいたします。まずは自転車競技を始めたきっかけを教えてください。
ダヴィ 私は幼少のころ、注意欠如と診断されていたこともあり、両親がその有り余るエネルギーをスポーツに傾けるように促してくれました。8歳の頃から小さなスポーツクラブに所属して、柔道やホッケーのほかに、マウンテンバイクのレースにも参加していました。10代の頃には、そのマウンテンバイクでスペインでは敵なしの状態になり、18歳からプロ選手としてスペインのチーム「MSC Bikes」に所属しました。
前田 若い頃から才能を発揮されていたんですね。そこからチーム ノボ ノルディスクに入ったのはどのようなきっかけですか。
ダヴィ オリンピック出場を目指していた22歳の時、右目の視力が落ちていき、病院で1型糖尿病であると診断されました。それでも私はマウンテンバイクの競技を続けたいと思い、1型糖尿病の診断のことをチームに伝えたのですが、その途端、契約を破棄されてしまいました。そしてまもなくして、チーム ノボ ノルディスクCEOのフィル サザーランド氏とコンタクトをとることができ、契約に至りました。
大きな挫折を味わいながらもチャレンジし続けたダヴィ・ロサーノ選手前田 病気によって競技においても大きな変化があったのですね。ダヴィ選手が1型糖尿病と診断された経緯とその時の率直なお気持ち、ご家族の反応をお聞かせください。
ダヴィ 1型糖尿病と診断される前は、自転車競技でワールドカップや世界各国のレースに出場し、2012年のロンドン大会の選手にも選ばれました。そんな人生の一番いい時期に1型糖尿病と診断されましたので、「挫折」という言葉がぴったりだったかもしれません。私の父親も同様に1型糖尿病を持っていたので、母親は私が普通の生活を送ることができるのか、自転車競技を続けることができるのか、とても心配していました。
ただ私はその診断から1週間後には競技をスタートさせる決断をしました。チャレンジする姿勢を私自身が見せることが大切なのではないかと思ったからです。母親は競技を続けられることを喜び、父親は自身の血糖管理に前向きに取り組むようになりました。
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