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【パリオリンピック競泳】松下知之が踏み出した栄光への第一歩 競り合いを制し掴んだ400m個人メドレー銀メダルの意味 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【同郷の先輩金メダリストと同じ道に】

 松下は、速い選手というより、強い選手という印象だ。平井コーチはパリ五輪に向けた彼の成長について、こう話す。

「3月以降は覚悟を持って練習もやるようになった。選考会では300mまでラクなレースをして最後の100mで頑張ったが、今回は決勝に向けて『あの時よりきついレースをしなければいけないが、それでも最後は力を出しきれると思います』と話していた。実際、決勝では覚悟を持ってレースに臨めた」

 銀メダルを手にした松下も、こう言って笑顔を見せる。

「最後の自由形は自分が一番強いと思うので、そこまでどういう順位にいるかが重要。僕は昔から勝負事が好きだけど、今回は純粋に勝負を楽しめました。緊張感があるなかでも、お互いに前半からいったり、後半勝負で臨んだりとか、作戦はいろいろあると思うけど、最後に一番早くタッチした人が勝ちという勝負は、本当にゾクゾクしてきます」

 平井コーチによれば、松下は勝負への自信と手応えが「選考会以降、さらに強くなってきている」という。

「ちょっとしたミスがあればメダルも獲れなかったと思うけど、あのなかで競り勝てたのは想定より少しよかったかなという感じです。3月の代表選考会と、マルシャンが一緒に泳ぐオリンピックの決勝ではステージは大きく違いすぎるが、そういうなかでも予選よりタイムを上げ、大舞台で結果を出したのは立派だと思う。そういう大舞台での強さを見せると、本当に"持っているヤツ"だなと思います」

 平井コーチは続けて、松下の今後についても期待を寄せる。

「今回は(4分)8秒台を出すというより、メダルを獲りにいったレースだったが、彼の場合は『何秒を出したい』というよりも、勝負を意識させたほうが強くなる選手だと思う。もっと上の記録を目指そうとなったり、『あと一段階上げなければいけない』と考えるようになった時には、前半の改善なども必要になってくるけど、現時点では、あの勝負強さと本番で力を出せるところはすごくいい武器になっていると思います」

 松下も先々に向けて、さらなる飛躍を誓う。優勝したマルシャンには目の前でその強さを見せつけられたものの、「自分はまだ若いので、4年後にはマルシャン選手を超えられる実力をつけて臨みたいと思う」と言いきった。

 同じ栃木県出身、同じ種目、東洋大でも同じ平井コーチに師事した萩野公介は、高校3年生の時に出場した2012年ロンドン五輪では銅メダルを獲得し、その4年後のリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得した。オリンピックで似たようなファーストステップを踏んだ松下は、自身の明るい未来を切り開くとともに、少し閉塞感のある日本水泳界に大いなる光をもたらした。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

競泳パリ五輪代表・三井愛梨フォトギャラリー

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